熊本県の「日奈久温泉」にいってきました。

南九州方面についてはまったく知識がなく、日奈久温泉の存在も初めて知りましたが、昔から名湯として知られていて、種田山頭火が昔訪ねて、非常に気に入った温泉としても有名なようです。

確かにこの付近は、東北などの湯治場とはどこか雰囲気が違い、雪があまり降らないせいか古い瓦屋根の建物が目につきます。屋根瓦の焼生法の違いなのかもしれませんが、崩れ方がちょっと関東や東北では見ないくらい古く感じました。

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上の写真のような廃墟が日奈久温泉駅の近くにけっこう残っています。日奈久温泉駅は八代から第三セクターの「肥薩おれんじ鉄道」に乗って行きます。その沿線を眺めていると、こんな感じの崩れかけた家がかなり目につきました。駅をおりた後、温泉に行く前に国道を歩いて、こうした廃墟を見て回りました。眺めていると、なぜか感傷的な気分になってしまいました。国道から一歩入った路地にも、廃墟ではなく実際に住んでいるにも関わらず、古い家が多いように感じました。

日奈久温泉駅も、旧JRの幹線駅ではありますが、かなりボロいです。駅から「日奈久温泉」に行く途中には、ちくわ屋さんが何軒かありました。ちくわは日奈久温泉の名物のようです。

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こういう家を見ながら歩いていると、もう自分としてはすでにはるばる来たかいがあったと思いました。

実際に泊まった「新湯旅館」は、大正時代の建物で、風情のある木造3階建てです。「日奈久温泉」の温泉街はそんなに大きくないので、すぐにみつかりました。日帰り入浴施設の「ばいぺい湯」というのがあり、そのすぐ前です。この入浴施設は最近できたらしく、江戸時代風の建物ですが見るからに新しく、場違いな感じがして結局入りませんでした。

立地としては温泉街の中心部にあり、付近には商店や飲食店もありました。

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上の写真がメインの商業エリア。うら寂しい雰囲気がめいっぱい漂っていますが、商業機能は生き残っていて、きちんと営業している店が多いようでした。

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上の写真が「新湯旅館」の外観です。残念ながら写真が手ブレしていますが、古い割に非常に手入れが行き届いておりきれいです。窓枠なども古い木製ですが、スムーズに開閉し、表面は何度も塗装をしたような感じがありました。今回は1泊2食付きで9000円で泊まりました。

入り口を入ると、大きな柱時計や鏡が置いてあり、昔の商人宿のような雰囲気。やたらとポスターが貼ってあるのを別にすれば、まさに私が大好きな雰囲気でした。

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声をかけると女将が出てきました。上品で、おそらく昔は美人で、ちょっと冷たい感じの第一印象。一見の一人客なので、特に愛想もなく、狭い部屋に通されました。でもむしろこういう部屋にこそ泊まりたいと思っていたし、通りに面した眺めの良い部屋なので気に入りました。3階はふだんは宿泊には使用していないそうです。

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この日、熊本としては異常に寒く、こたつが出ていました。「狭い部屋のほうが暖かいから」と女将がいってましたが。実際のところこのへんは基本的には暖かく、女将は「温泉街の中には大きなブーゲンビリアもある」といってました。

お風呂に入りたいというと「何時頃?」と聞かれたので、ある程度準備しないと入れないようです。「何時でもいい」というと、「じゃあ食事の1時間くらい前に入れるように準備する」ということでした。実際に入ってみて非常に気に入りました。2槽に分かれていて、お湯が出ている口から少しずつかけ流して温い浴槽にお湯が流れる形式。ぬるめのお湯に長湯するのが好きなので、けっこうゆっくり浸かりました。

雰囲気はきれいなタイル貼りで、普通イメージするような湯治場風情はないのですが、ちょっと大正モダンが入ったような、明るい浴場でした。浴槽にはザボンなのか晩白柚なのか不明ですが、驚くほど大きい柑橘類が浮いていました。他に客はなく、ずっと貸し切り状態で入浴しました。

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部屋にもどるとすでにこたつの上に食事が出ており、しばらく待っていると今度はおかみとは別の美人のおばちゃんがビールとごはんを持ってきてくれて、鍋に火を付けてくれました。

この宿は女将といいこのおばちゃんといい、妙に上品でお嬢様っぽい雰囲気を持っています。言葉もていねいで立ち居振舞いも美しいので、妙に緊張してしまいました。

食事は別に豪華ではありませんが、非常においしいかったです。あとで聞いたところ、米は付近の棚田米で、薪でかまど炊きをしているそうです。「このへんはいまだにかまどと薪なんですよ」と、美人おばちゃんが教えてくれました。このごはんを木製のおひつに入れて出してくれます。いつも温泉では塗り物もどきのおひつに慣れているので、もうそれだけでこっちとしては感激しました。

魚もおいしいのですが、西日本特有のまったりした甘い醤油なので、どうもそれが残念でした。朝食もおいしくて、ちょっと今回の宿は豪華過ぎたかな、と反省しております。

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食後、ふとんを敷きにきた美人おばちゃんが、「朝は朝食に指定した時間の1時間くらい前にはお風呂に入れるように準備しておきます」というので、8時に朝食を食べることにしました。それで7時に起きてお風呂に入りました。朝風呂にも誰もいませんでした。

温泉街にはラーメン屋などもあったのですが、食事に満足したのででかける気にもならず、夜は何をすることもなく、部屋でボッとしていました。本当は山の上のほうにある神社にもいって見たかったのですが、暗くなって危ないのでやめておきました。美人おばちゃんが食事の時に「お客さん、日奈久は初めてですか? それならこのへんのパンフレットなんかをさしあげましょうか」というので、それをもらって、夜はながめて過ごしました。

でがけにお金を払う時には女将と美人おばちゃんが出てきて、一晩、問題も起こさずに泊まったせいか、愛想がよくなっており、靴まで軽く磨いてくれました。「またどうぞ」といわれたので、たぶん次回も泊めてもらえることと思います。本当に落ちつけるいい宿でした。その節はお世話になりました。

朝は少し温泉街をまわってみましたが、新湯旅館をしのぐほどの古い旅館があり、「金波楼」と看板が出ていました。ここも中を見学したいところですが、たぶん宿泊料はずっと高いと思います。

このほかなまこ壁の建物や、小さな味噌製造工場などがあり、温泉街の雰囲気も気に入りました。もらった資料によると、共同浴場がいくつかあるほか、朝市なども開かれているようです。

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ちなみに温泉街から少しはずれた国道沿いに「木賃宿 織屋」という建物が残っており、そこにもいってみました。ここは種田山頭火が日奈久を訪ねた時に泊まった宿だそうで、現在は見学できるようになっています。

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「織屋」は狭い宿で、入り口からすぐの階段を上がったところに2間ありましたが、木賃宿というだけあって非常に貧しい宿です。現在も営業しているならぜひ泊まってみたいところでした。

そういうわけで、熊本で初めての温泉旅行は思った以上に楽しめました。1泊しかできなかったのが残念です。今度行くとしたら、夜は日奈久温泉の古い歓楽街でも遊んでみたいと思います。

[日奈久温泉・新湯旅館](2009年12月宿泊)
■場所 熊本県八代市日奈久中町290
■泉質 弱アルカリ性単純温泉
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