御岳山の御師宿坊を出て、あまりにも天気がいいので、せっかくここまで来たからにはもう一泊できないかと考え始めました。青梅あたりには古い宿もありそうです。岩蔵温泉なんてのも良さそうですが行ったことがありません。
ちょっとウェブで調べてみると、青梅の旧街道沿いに「橋本屋」という良さそうな“ボロ宿”があることがわかりました。さっそく電話してみると、「満室」。確かに紅葉シーズンでもあり、週末だったので、当日予約は無謀だったかもしれません。
そうなるとあとはなりゆきまかせで、もしいい宿が見つけられなかったらそのまま帰るつもりで出かけました。
とにかく天気が非常に良かったので、「みたけ渓谷」を歩いてみることにしました。御嶽駅から沢井駅まで。川沿いに散歩道が作られています。
「沢井」というと、大菩薩峠の机竜之助の生地で、沢井道場があったという「武州沢井村」のことでしょうか。確か御岳山の近くであったような気もしますが、しかし大菩薩峠のふもとまで行くにしてもここからかなり遠いし、あまり確かではありません。
とにかく、遊歩道に降りて歩き始めました。
天気が良く、けっこう暑いくらいです。紅葉も色づいており、カヌーやバーベキューなど、遊んでいる人もたくさんいました。
それに山奥の渓谷沿いの細い散歩道でありながら、けっこうカフェやそば屋、野菜の直売店などがたくさんあるのが意外でした。私が知らないだけで、けっこう観光客の多い有名スポットなのでしょう。
私の狙いは、美しい渓谷美というより、沢井駅近くにある小澤酒造の利き酒をやることでした。銘酒「澤乃井」で有名。本社ちかくに「澤乃井園」とかいう庭園があって、ここで利き酒とか食事もできるということでした。
歩いているうちに沢井駅が近くなり、「澤乃井園」はすごくにぎやかなのですぐに見つかりました。
売店も盛況でしたが、まずは利き酒処へ。
一応、ちょっと高そうなやつを2種類ぐらい飲んでみました。料金は2種類飲んで、「ぐい飲み代」が含まれていて500円くらい。このぐい飲みは持ち帰って愛用しております。かなり大きいので2杯飲むとかなりききます。なかなかコクのあるいい酒でした。ちなみにつまみ持ち込みは禁止。
ここでお昼も食べようと思ったのですが、メニューの種類が少なく、しかも売り切れが多かったのでやめておきました。「澤乃井」の安い四合ビンを1本買って出発。
そして沢井駅から青梅へ。
青梅はレトロタウンとして町おこしを狙っているようで、駅のホームの立ち食いそばもなかなか良さそうでした。「青梅想ひ出そば」。
普通ならここで食べるところですが、この日はもっと本格的に町中で食べようと思っていたのでパス。
改札口にはバカボンのパパの像。どういういわれかわかりませんが、赤塚不二夫も青梅の町おこしでキーアイテムになっているようです。私の個人的な考えをいわせてもらうなら、青梅のような街道筋の歴史ある町は、こんな方向に走る必要はないと思います。
とにかく今夜の宿泊を断られた「橋本屋旅館」を見学に行くことにしました。電話に出た若い女性は非常に感じが良く、「あまりやる気がないので面倒だから断る」という感じではなく、本当に満室で、申し訳ないという感じが伝わってきました。これだけで私としてはいい宿だということが実感できます。今後のために、せめて見るだけでも見ておきたいと思いました。
駅から歩くと、わざとらしいレトロ演出が目につくなかで、橋本屋を発見。駅からはけっこう遠く、10分くらい歩いた感じ。しかし、なかなかいい宿です。
ここは泊まりたかったな~。でも次の機会に期待することにして、駅方向に戻りました。
だいたい、こういう古い映画看板が目立ちますが、これはすでに夕張市でやって、あまりうまくいっていないパターンでは? シャッター通りの侘しさと皮肉な対照を感じますが、でも、努力をしている感じは伝わってきます。
本当のことをいえば、青梅本来の歴史をもっとそのままにアピールするほうが、私のような偏屈人は魅力を感じます。ちょっと反省をうながしてやろうと、まず橋本旅館の近くにある「昭和幻燈館」というやつに寄ってみました。
入口に力道山のパネルが置いてあったり、すでにわざとらしいです。
中に入ると受付に人がいません。有料なのですが、誰もいないので勝手に中に入ってみました。
すると、思いも寄らなかった魅惑の空間が広がっていました。
早くいえばジオラマです。
古い日本のいろんな町を再現していました。本当によくできています。
じっくり見るなら、1日いてもいいくらい。
昭和というより、もしかしたら大正の雰囲気も混ざっているかも。
とてもすべては紹介できませんが、中でもいいと思ったのが、どこかの山の温泉宿を再現したジオラマです。
藁葺き屋根と露天風呂。こんな宿が実際にあったら私は通いつめると思いますが、本当に今の日本にはなくなってしまいました。
ボーっとした気分でジオラマ室を出ると、受付におばちゃんがいました。「お金を払おうと思ったけど、誰もいなかったので勝手に入った。けして怪しいものではない」という趣旨のことをきっぱりといったのですが、あまり聞いてもいないようで、「ここは200円ですけど、ほかの昭和レトロ商品博物館や赤塚不二夫会館も見るなら、共通券がお得で700円」といわれたので、つい700円払ってしまいました。200円割引になるようです。
お昼がまだでおなかがすいていたのですが、とにかく買ってしまったからにはこれら2つのイベント館に行ってみるしかありません。
「昭和レトロ商品博物館」と「赤塚不二夫会館」はすぐ隣合わせにありました。
まずは「赤塚不二夫会館」へ。
ここもバカボンのパパの像が置いてあり、観光客をなめきったようなディスプレイが盛りだくさんでした。マンガのキャラと引っかければ、それだけでけっこう人が集まってしまうという最近の風潮。私は厳しく批判の鉄槌を下そうと思い、そうであるからには実際に見ておこうと思って入ってみました。
手前に受付やいかにもテキトーなキャラクターグッズが置いてある売店。バカボンの靴下とか誰が買うのでしょう。そんなものを横目に見ながら奥に入っていきました。
そこでいきなり目についたのが「トキワ荘」のジオラマです。トキワ荘といえば泣く子も黙る日本マンガ業界の歴史的名所ですが、現存していません。それが当時のようすさながらに再現されています。
よ~く見ると、流し台で体を洗っているやつや、ラーメン屋「松葉」の出前を待っている人も。こんなに凝ったものをよくも作ったものです。見ていてまったく飽きることがありません。
私としてはつくづくジオラマが好きだな~と思い知らされた一日でした。ただ、後でわかったのですが、この館内は写真撮影禁止のところが多く、このジオラマも撮影して良かったのかどうかわかりません。もしダメだったとしたら、こんなところに載せてしまったので今後私にしかるべく刑罰が課されるおそれがありそうです。
とにかく赤塚不二夫という人は、まあ、私の世代くらいになると知らない人はいないわけで、あまりにも多くのヒット作があるため、もはや空気のような存在です。いちいち記念館で業績を確認したい、というような存在ではないわけです。
イヤミの隣で「シェー!!」をやって記念撮影できるスポットなどもありましたが、あまりにバカバカしいため、一応見せしめのために私もポーズをして撮影しておきました。手先の切れ具合といい、完璧な「シェー!!」でしたが、ここで公開するのはやめておきます。
2階にあがると、原寸大バカボンのパパがおぜんに座っていました。つい、記念写真を撮ってしまいました。
まあそんなこんなで、こういうふざけた記念館がどれほどの意味があるのかわかりません。しかし、私としてはこういう安易なアプローチの是非を検討する意味でも、なるべく多くの人に一度行ってみることをおすすめします。しつこいようですが、その場合、3館共通券がお得です。
さて次は、隣接する「昭和レトロ商品博物館」へ。ここは古い駄菓子屋の雰囲気を再現し、懐かしいレトロ商品をたくさん並べています。駄菓子だけでなく生活用品なども多数置いてありますが、最近、こういうのはけっこうあちこちにあるので、別にたいしたことはなかったです。ただ商品の充実度というか、収集したレトログッズはなかなかのボリュームがありました。
黄金バットの紙芝居も。これは古い。「どこから来たのか黄金バット。こうもりだけが知っている」。
しかしそんなことより、ここの見どころは雪女の部屋です。2階にあがる古い急階段があり、たぶん昔はカイコの繭を育てていたような屋根裏部屋につながっています。
「なんでまた」と私も思いましたが、いろいろな考証の結果、雪女という民話の舞台は、この青梅であったという説が有力なのだそうな。そういうわけでいろんな雪女の造形物が置いてありました。
私はああいう話は、雪で命を落す危険があるようなところでは、日本のどこにでもあったのではないか、と思っているのですが、とにかくけっこうにぎわっていました。もともと古い家を活用しているだけでなく、古い本や資料も置いてあり、なかなかおもしろいスペースになっていました。
そんなわけで青梅の町起こしレトロ路線にどっぷり浸かり、宿を探すような余裕もありませんでした。駅前にはビジネスホテルもありましたが、結局このまま帰ることにして、とにかくお昼がまだだったので2時過ぎくらいに食堂を捜索。
駅のすぐ近くにそば屋を発見。
なかなか良さそうだったのでここでビールを飲みラーメンを食べました。歩きまわった後なのてビールがおいしくて、つい冷奴も頼んでしまいました。
懐かしいレトロラーメンの味がたまらない。そばもなかなかおいしかったです。
今回、青梅・奥多摩方面に出かけたのは御岳山の紅葉狩りが目的でしたが、やはり古くから人が住んできたこのエリアには、なかなか捨てがたい魅力があると感じました。「橋本屋旅館」は本当に良さそうだったので、東京からは近いですけれどいずれ泊まってみたいと思っています。