諏訪というと、前から通過することは多かったものの、どうもあまり立ち寄って泊まりたいとは思いませんでした。

神代からの歴史を持つ土地柄でありながら、それを大切にせず、まず生活排水で汚染されてしまった湖をイメージしてしまうからです。湖岸にならぶ豪華温泉ホテルも、あまり魅力を感じませんでした。例えば中央道のSAから諏訪湖を見ても、湖の周囲に立て込んだ市街地が目について、印象は良くありませんでした。

今年、用事があって上諏訪温泉に泊まることになり、久しぶりに1泊しました。寒い時期なのであまり歩き回ることもできませんでしたが、やはり歴史を感じさせる雰囲気があり、あんまり食わず嫌いみたいに敬遠してばかりいてはいけないな、と思いました。

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今回の訪問では、まず上諏訪駅に到着して近くで仕事を済ませたあと、昼頃にまた駅に戻りました。東京からだと日帰りで十分なのですが、とにかく泊まるつもりで宿をとっていたので、午後は上諏訪周辺で時間をつぶすことにしました。前にもきたことはあったのですが、駅の周辺は再開発というか、何かの工事をしていて、ちょっと雰囲気が変わっていました。駅のホームに立派な足湯を作ってあって、入る気はまったく起きませんでしたが、旅行気分を盛り上げる意味ではいいのではないかと思いました。

まだお昼過ぎなので食事しようと思って店を探しました。それなりに繁華でいろんな店があったのですが、再開発工事に取り残されたような、戦後のヤミ市のような一角があり、ここにラーメン屋さんがあったので入ってみることにしました。

カウンターとテーブルひとつの店内には、先客がひとりいて、昼間っから酒ビンを前に突っ伏して寝ています。こういう反社会的な行為を見ると、こっちもだまっていられません。もし店に迷惑をかけているようならたたき起こしてやろうと思ってそのおっちゃんに近づいていくと、店のご主人が人指し指を口に当てて、「いいからほっとけ」という合図をするので、たたき起こすのはやめてテーブルのほうに着席しました。たぶん憎めない常連なのでしょう。

こういうおっちゃんがいるようなら、こっちも見せしめのために昼間っから飲んでやろうかと思いましたが、夜は宿で食事が出ることでもあり、ここは勘弁しておくことにしました。しかし、この店の味噌ラーメンが上品な味付けで、意外においしかったのは得した気分でした。


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さて上諏訪温泉というと、有名なのは「片倉館」です。財団法人が運営するというちょっと変わった温泉施設として有名です。建物もかなりの渋さです。

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実際、入浴したかったのですが、諸事情があり、ここはがまんして見学だけしてきました。ちょっと排他的な雰囲気で、入浴客以外は一切中には入れてくれないというところも気に入りました。

一応お風呂の写真が掲示されていたのですが、下の写真のような感じ。大正モダンというのか、ちょっと四万温泉の積善館みたいな雰囲気を持ち、レトロでなかなかいい感じです。

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ここまで来ると湖岸にも近いので、一応湖に行ってみました。氷は張っていませんでしたが、御柱の年でもありいろいろ観光客向けの仕掛けもあって、意外におもしろかったです。間欠泉が噴出するのを見学できるというので、いってみました。

例によって団体旅行のガイトの解説を盗み聞きしたところ、去年の7月くらいから間欠泉の出が悪くなって、最近は噴出の高さが不安定だということでした。「高くあがるかどうかはみなさんの日頃のおこない次第です」などどいってましたが、こういうギャグは函館の夜景とか、条件に左右される観光地に行くと必ずガイドがいいますね。

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とにかく前おきが長くなってしまいましたが、この日泊まったのは「民宿すわ湖」という非常に安い宿です。

見た目はかなりのボロさというか、歴史を感じさせる建物でもなく、ただ古いだけの安宿という感じでした。新札(野口英世)が使えない自動販売機も久しぶりにみました。

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実際、中に入ってみても特別な風情はなく、ビジネス旅館という感じだったのですが、そうした見立ては結果的には裏切られ、想像以上にいい宿でした。料金は2食付きで6500円前後です。女将さんらしき人が出てきたのですが、とにかくやたらとていねいかつ低姿勢で「こんなボロい家ですみません」と、本当にいうのです。「いや、ボロを狙ってきたんですけど…」といいそびれました。

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諏訪湖の温泉はみんなそうなのだと思いますが、市が管理する源泉を配給しているので、お湯自体はどこに泊まっても質的な違いはあまりありません。その中でこの宿は、「民宿」とはいいながら、なかなかいいお風呂を持っていました。

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お風呂は男女別の内湯と、実質的に貸し切り使用の露天風呂があり、この中庭に面した露天風呂がなかなか良かったです。もう1時間以上独占してしまいました。内風呂も深夜にいってみましたが、しみじみとした感じがなかなか良かったです。

部屋は古い造りではあるものの、テレビとか空調とかは完全に近代化されており、設備的には非常に優れています。部屋に案内されて、ちょっと世間話をしたあとに「やれやれ」と思って油断してると、女将が再び戻ってきて、「一輪挿しを置き忘れていた」といって花瓶を持ってくるのです。こっちはそういうことに気づかない客ではありますが、宿の矜持として立派だと思います。

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そんな感じで、宿の設備は民宿というよりそこそこ立派な旅館レベルです。非常に実用的で必要なところは新しい設備を入れており、トイレも部屋についているのですがシャワートイレでした。要するに建物が古いだけであって、宿泊施設としては十分な内容を持っています。

その女将に聞いてみると、この日は工事関係の4人と、ビジネス客2人がいるということでした。その後、夕食の大広間にいってみると、私を含めて7名が、かなり広い部屋で少し距離を取った座席設定で食事をすることになりました。この時の工事のおっちゃんチームによると「片倉館の風呂はすごく深くて、おぼれそうになった」ということです。

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夕食はセルフのすき焼きでした。夕食の世話に出てきた若い男性は、ご主人なのかもしれませんが、「すき焼きはご自分で焼いていただくことにしております。申し訳ありません」とやたら低姿勢でいいます。コストを抑えながらも、それなりに満足感のある食事を出そうと苦労している感じがうかがえます。

こっちとしてはすき焼きを焼かせたら泣く子も黙る、というくらいのもんなので喜んで焼きましたが、工事のおっちゃんたちは、「まずは焼酎を一升瓶で持ってきてくれや」というところから始まって、飲むほうに重点があったようです。宿としては焼酎の一升瓶など備えていなかったようですが、「ちょっとお時間をいただけますか」といって、結局調達してきたみたいでした。

こういう宿で長酒するなら「自分の部屋で」というのは鉄則です。そういうことならこっちも本気出して飲んでやろうかと思いましたが、この日はお銚子2本で勘弁しておきました。とにかく宿の人がとてもていねいで親切なのがとても印象的で、非常に気分よく食事することができました。

朝食もいち早く広間にいって食べようとしていると、女将がテレビを付けてくれて「すみません、テレビをご覧になりたいところ気がつきませんで…」などというのです。この“ていねいな言葉使いと低姿勢”は、もはや宿の方針なのでしょう。

そういうわけでえらく長くなってしまいましたが、とても居心地のいい宿でした。こういう家は、何とかがんばって長く商売を続けてほしいと思います。

[上諏訪温泉・民宿すわ湖](2010年1月宿泊)
■場所 〒392-0027 長野県諏訪市湖岸通り5-13-21
■泉質 アルカリ単純泉
■楽天トラベルへのリンク→上諏訪温泉 民宿すわ湖
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