首都圏内にありながら、小江戸とも呼ばれるほど古い町並みが残っているのが佐原です。現在は広域合併によって香取市という名前になっていることからわかるように、香取神宮があることでも有名です。
まあ合併による新市名として「香取市」というのはできのいいほうだと思いますが、せっかく古雅な趣のある「佐原」という市名が消えたのは残念な気がします。
だいぶ前に香取神宮を参拝して以来、久しぶりに訪問しましたが、佐原の町並みを見るのは初めて。想像以上にすばらしいところでした。

旧中心街は上の写真のような感じ。川沿いに古い家並みが続きます。こういう風景は日本の各地に残っていると思いますが、ここは街全体がそのまま残っている感じがします。しばらくいると感覚がマヒしてきて、明治くらいの建物だと別に?という感じになってきます。
泊まった宿は「木の下旅館」で、けっこう有名だそうです。ここのご主人の話しによると、「映画やドラマの撮影は数知れず、有名人もずいぶん来ているけど、俺はそういうのにはあんまり興味ねえんだ」と、ちょっと江戸っぽいべらんめえ口調の人でした。
佐原というのは小江戸とはいっても城下町でもなく、利根川水運で栄えた商業の町ですから、江戸の町人気質が残っているのでしょうか。

「木の下旅館」は上の写真のような外観です。こういう外観だけで私の場合、けっこう感動してしまいます。到着した時間が遅かったので、当日はあまりよく見ませんでしたが、翌朝見ると目の前を利根川につながる小野川が流れていてその脇には柳の並木が。本当に風情がありました。


部屋は川沿いの通りに面した8畳の部屋で、雰囲気は昔っぽいですが、とてもきれいでいい感じの部屋でした。最初から布団がしいてあるのも、私としては好きなのです。この日、ほかに宿泊していたのは、業務で泊まっている観光ボンネットバスの運転手さんだけでしたので、一番いい部屋に通してもらったのではないかと思います。
天気は良かったのですがとにかく寒くてすぐにお風呂に入りました。お風呂は妙に洗い場が広く、おそらく昔は薪で焚いていた釜のスペースを改造したのではないかと思います。そのへんは未確認です。途中の廊下に「手榴弾消火器」というのもありましたが、いまではほとんど見かけない手投げ式の消火器です。

食事は一階の食事部屋でとりますが、この部屋は妙に新しい感じの部屋でした。ご主人によると「床板が少し割れたので修理してもらおうとしたら、きっちり打ち合わせをしたのに手違いがあって、床全部貼り替えられた。食堂は元の帳場で窓枠なんかも昔のままだったんだけど、今風に直されてしまって、大工に文句いったんだけど、謝るばっかりで話しにならなかった」と非常に憤慨していました。
あちこち手は入っているものの、やはり黒光りする階段とか、全体の古格は失われておらず、江戸時代の旅籠に泊まったような気分でした。食事も素朴な家庭料理ですが、けっこう凝っていておいしかったです。「今日は寒かったんで大根を炊いてみた」といってました。

ここは1泊2食付き6300円だったのですが、食事はもう十分すぎるくらいの内容でした。ごはんそのものもおいしかったです。
ご主人はけっこう体格のいい一見こわそうなおっちゃんなのですが、翌朝いろいろ話しを聞いていると、やはりさっぱりした江戸人気質というか、祭り好きだということもわかりました。佐原には昔からの祭りがあるそうで「今度は祭りの時期にくればいいよ。今はさすがに寒くて人は少ないよ」といってました。
その祭りも昔は「木の下旅館」があるサイドの諏訪神社方と、川向こうの八坂神社方とに分かれて別々にやっていて、祭りの時期も違い、お互い行き来もしなかったそうです。しかし近年は、町の発展のために共同して相互に幣台(やだい)という山車が行き来して、それは盛んなものだそうです。女将さんによると、「このへんに生まれた人はみんな祭り好きだし、若い人も祭り目当てであんまり出ていかないんです」ということでした。
なお、ここにも例のホンジャマカ石塚の色紙がありました。あの人の色紙はほんとに日本中どこに行っても貼ってありますね。もはや宮田輝を超えたかもしれません。
「木の下旅館」は昔は利根川水運の船宿で、そういう家は昔は何軒もあったそうですが、いまも旅館をやっている家はほとんど残っていないみたいです。「目の前の川から荷物を上げ下ろししてそれは盛んなものだった」というご主人も、実はそんなに昔のことを知っている年ではないはずなのですが。
出がけにもご夫婦で見送りに出てくれて、あがりのところでさらに20分くらい話し込みました。映画の撮影なんかはよく頼まれるそうで、まあ差し支えがなければ受けているそうです。ただ予定時間に終わらず宿泊客に迷惑がかかるようなこともあったので、面倒だといってました。「松たか子は、あれはきれいというよりかわいいって感じだったな。きれいだったのは真野響子だよ」などと、ほんとはけっこう好きなんじゃないの? と思いましたが。
「テレビの威力はすごいよ。この前“アド街”で佐原をやって紹介されたんだけど、番組が終わるか終わらないかくらいから予約の電話がなりっぱなしだった。それからちょっと前に週刊文春の記者が泊まったんだけど、朝まで正体をあかさねえんだ。朝になって記事で紹介したいので話しを聞きたいというから、こっちは忙しくて断ったんだけど、どうしてもというから、いろいろ話してやったよ。そしたら週刊誌に載って、その週は予約が殺到したけど、次の号がでたとたん、ピタッとこなくなった。マスコミで紹介されるのもいいんだか悪いんだか…」てなことをいってました。
でも、ある著名な芸能人が泊めてくれ、といって個人的に訪ねてきた時は感動したそうです。女将さんは「本当に気取らないいい人でした」といってました。ご主人が「ああいう芸能人は、自ずから人を惹きつけるものがあるんだな。特に歌手はさすがだよ。それと比べると俳優はだいたいあいさつくらいはするけど、あんまり俺らとは口を聞かないね」というと、「そうでもないわよ」と女将さん。この夫婦は同時にいろんなことをいうので、こっちはどちらを聞いていいのか迷うくらい話好きでした。
この宿も気取ったところのない気軽な宿で、とにかくご夫婦と、夕食の世話をしてくれた若い女性(娘さん?)も全員心がこもっていて、まったくもって旅先とは思えないくらいくつろぐことができました。娘さんもお酒をお代わりしても気持よく「どうぞごゆっくり」といって持ってきてくれるし、とにかく混んでいなかったせいもあって、最高の時間を過ごすことができました。女将さん、その節はみかんをありがとうございました。
このあと見どころをご主人に聞いたりして、まずは古い酒蔵を見学にいってみました。ちょうど団体旅行のバスがきていました。酒蔵の人にちょっと試飲させてくれというと、「いま鏡開きをやるところなので、一緒に飲んでくればいい」というお言葉に甘えて、団体に紛れ込んで見物に行きました。東薫酒造という造り酒屋です。団体旅行の酔っぱらいおやじたちが鏡開きで盛り上がっていて、木槌でチャンバラの真似をしたりして、酒蔵の人におこられていました。酒蔵の人によると、いい年をしても木槌なんかを持つと童心に帰ってしまうのだそうです。このあと馬場本店という酒蔵にもいってみましたが、ここも江戸時代そのものでした。
この団体旅行のおっちゃんたちとは、この後も伊能忠敬の旧居跡とか、いろんなところで遭遇してしまいました。小野川では川遊びの舟が出ていて、炬燵がセットされた舟で川をのぼりくだりしてくれるのですが、はしゃぎまくっているおっちゃんたちは、これにもすぐさまキャーキャーいいながら乗船していました。
とにかく佐原のすごいのは、街の特定の一角に古い建物が残っているというのではなく、ちょっとした路地なんかにも昔の町割らしき痕跡があることです。だからどこを歩いていても飽きることがありませんでした。「木の下旅館」のご主人によると「戦災をまぬがれたのでけっこう古いまま残っている」ということです。表札を見るとやはり「伊能」さんが何軒かありました。


この日、お昼は「小堀屋本店」という蕎麦屋さんに行きましたが、ここもすごく古い建物です。並びに似たような古い建物がいくつも並び、圧倒される感じでした。もりそばもおいしかったです。


上の写真は「小堀屋本店」の外観と内部ですが、その下の3つ目の写真は、模型の「小堀屋本店」です。街の中の公営の休憩所にジオラマ風に展示してありました。本物そっくりに作ってあります。
さらにその並びには迫力のある蔵造りの「正文堂」という家があり、中ではおばあさんが一人、ずっと通行する人々を眺めていました。その向かいにある骨董屋さんに聞いたところ「2年前まで営業していた本屋さんで、このあたりでも格別古い建物だ」と教えてくれました。おばあさんは商売をやめたので、退屈していたのでしょうか。
この家は書籍を扱っていたので燃えにくい構造にしてあるのでしょう。この前の通りは香取神宮の参道だったそうで、昔から人通りが多く繁栄してきて、今でも車がたくさん通っていました。とにかくこんな調子で、古い家がいくつもあります。
東京駅から高速バスでいくと1時間半くらいのところですが、これだけの規模で古い町並みが残っているというのは奇跡的なことです。すでに有名な町並み保存地区なのでしょうが、実際にいってみてとても感動しました。ご主人の勧めるとおり、祭りの時期にもぜひ行ってみたいと思います。
[佐原・木の下旅館](2010年1月宿泊)
■場所 〒287-0003 千葉県香取市佐原イ498
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泊まった日は宿泊客がたくさんいて、部屋は川沿いの良い部屋ではなく、
4畳半くらいで、雨戸がしまっていて日光がまったく入らない部屋でした。
部屋に入った瞬間は「ええっ!!」と、驚いたのですが、だんだんその小さくて日も入らない部屋が不思議とものすごく心地良くなってきました!
あの部屋の心地良さは、どんなステキな旅館のキレイなお部屋よりも記憶に残っています。
カギがかからない部屋で、子供が間違えて入ってきたりしたけど、そういうことも楽しめる宿でした。ゴハンもおいしいですよね。
新しい宿よりも、時間が染み込んでるような宿が好きです。