前にもこのブログで少し紹介した「下部温泉」は、甲府から富士川を下った山間にあります。東京からだと河口湖~本栖湖を経由して、峠道を超えた向こうにあたります。JR身延線も通っていますので、電車で行くにも便利なところです。

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「古湯坊 源泉館」は「下部温泉」のなかでも由緒ある古い宿のようで、武田信玄の免状が残されているなど、甲府周辺に多い武田信玄公の隠し湯のひとつとして知られています。近代では作家の井伏鱒二が好んだ宿としても有名だそうです。

初めていった時はバイクでの立ち寄り入浴でした。この時入った「かくし湯岩風呂」が印象的だったので、改めて3泊の予定ででかけました。

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上の写真の鳥居の右側が岩風呂のある建物で、その上は湯治客用の宿泊棟になっています。鳥居の左側に本館や受け付け、ロビーなどがあり、こちらのほうが本来の旅館なのだと思います。私は当然のように湯治棟に泊まりました。湯治だと2食付きで6000円ちょっとで、食事はよくいえば健康食というのか、はっきりいってかなり厳しいものの、品数としては十分。味はともかくボリューム面での問題はありません。

私たちは一応「ごはんですよ」を持ち込みましたが、3日とも同じようなメニューが続いたので、けっこう役にたちました。

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湯治棟に泊まると、エレベーターで1階に降りるだけで岩風呂に入れます。すごく便利でした。建物はかなり年季が入っていますが、部屋自体は普通にきれいでした。

特徴はここのお風呂です。男女別の脱衣所があり、扉を開けるとわたり廊下のような構造を抜けて混浴の浴場に出ます。ここは風呂の上段部分で洗い場や小さな岩風呂があります。そして階段をおりた下段側に、天然の岩をくり抜いた深さ2メートル以上の大きな岩風呂があるという造りです。夜間は入浴できません。

岩風呂の腰くらいの深さのところ一面に板が渡してあるので、深さは実感できませんが、直接源泉が足元湧出しているのがすばらしいところ。無色できれいに透き通った神秘的なお湯です。足元から源泉が出ているわけですから、新鮮さは最高レベルです。下の写真は宿のHPからお借りしました。

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問題はその温度で、30度といっていますがほとんど水に感じます。冷たいです。まったく前知識がなくて入ると飛び上がるくらいだと思います。ここにみんなじっくり浸かっています。何時間も入っている人もいます。体が冷えたと感じたら上段の熱い岩風呂に入って温め、また低温泉に入るという繰り返しが、このお湯の基本パターンになっているようです。私たちも1時間を目標に浸かりました。

ここに3日もいると、いつも長時間一緒にお風呂にいるわけですから、宿泊客のメンバー構成がわかってきて、顔なじみになりました。老夫婦が3組と、60前後くらいの苦み走った大物俳優に似た二枚目のおっちゃん(私たちはミフネさんと呼んでいた)、50代くらいの常連で、全体を仕切っている感じのおっちゃん。このおっちゃんは、入浴中のお風呂道具の置き場所までアバイスしてくれました。

そのほか30前くらいの若い女性が2人、おばあちゃん1人、おばちゃん2人です。顔なじみの常連どうしは親しく会話をしていましたが、基本的に低温泉に浸かっている時はみんな無言で身動きしないようにしています。中には死んでるのかな、と思うくらい動かないおばちゃんもいました。


というのもじっとしていると体の周りのお湯が少しばかり温まるのですが、動くと冷たいのです。熱いお湯に入った時に、じっとしていると耐えられるが、動くと熱いというのと同じ現象です。ですから新客が階段を降りて入ってくると、どうしても浴槽全体のお湯が動くため、みんななるべくゆっくりと入ってきます。

日中は日帰り入浴の客もけっこう来ましたが、宿泊客はみんな何らかの治療目的か療養目的を持っている感じで、まじめに何時間も浸かっています。腰の悪いと思われるおばあちゃんは、湯船の奥の唯一床板がなく岩場がむき出しになっているところに陣取って、ひたすら耐えるように目をつぶって長時間浸かっていました。

私もおばちゃんの一人にどこか悪いと思われたらしく「ここのお湯はなんにでもよく効くよ」と声をかけられました。さらに「上の熱いお湯はちょっと体を温めるだけのものなので、温まってばかりいないで効能の高い下の源泉にできるだけ長く入らなきゃダメだ」と厳しく指導されました。入浴後はお肌もツルツルで、ちょっとポカポカした感じになります。

混浴ではありますが、女性は湯浴着着用かバスタオル巻き、男性もタオル巻きがほぼ義務化されており、常連の女性はみんな自前の湯浴着なんかを持ってきていましたし、男性も大きめのタオルを巻いていました。昨今乱れてきたといわれる混浴マナーですが、ここでは常連率が高いせいかきちんとしており、すがすがしい感じを受けました。

3日もいると退屈なので、温泉街の散歩に出ます。しかしそれほど見るべきものはありません。温泉街全体がかなり衰退した感じで、いくつか立派な宿はありますが、それ以外は廃業した旅館や商店の廃墟も見られます。

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このときは、1度電車に乗ってすぐの身延山まで遊びにいったのと、もう1日は近くの「金山博物館」を見てきました。このへんにも武田のかくし金山があったらしくそれにちなんだ博物館です。砂金取り体験や、金の採掘シーンを再現したジオラマ、大きな金貨の実物展示などがあり、それなりにおもしろかったです。ここでつい「金の延べ棒型ライター」を買ってしまいました。これ、別にどこにでも売ってるんですけど、衝動買いでした。

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そのほか神社や小さな祠もありました。宿の鳥居の奥をのぞいているとと2階の部屋から常連のおっちゃんたちが「奥には祠もあるし、眺めもいいからいってみろ」と声をかけてきました。のんびりムードというか、温泉街全体に沈滞した雰囲気があるなかで、新しい入浴施設「下部温泉会館」があり、それなりにお客が来ていました。

非常にいいお湯がありながら、衰退していくこうした温泉街の活性化にはどこも頭を悩ませているようです。いまの観光客が何を求めているのか。私もちょっと世間と感覚がズレているほうなのでよくわかりませんが、これだけのお湯と歴史があるのですから、なんとかなるはずだと期待しています。

[下部温泉・古湯坊 源泉館] (2006年5月宿泊)
■場所 〒409-2942 山梨県南巨摩郡身延町下部45
■泉質 アルカリ性単純泉(源泉かけ流し)
■楽天トラベルへのリンク→古湯坊 源泉館
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