今年の連休に震災後の東北方面を訪ねてみようと、いろいろ計画を考えてみました。福島県内も考えたのですが、いくつか宿を当たってみると、ボランティアや復興工事関係者、原発関係者のみを受け付けているところが多かったので、単なる観光目的の私としては、どうしようかと悩むところでした。

そんな時に、前からこのブログに時々コメントをくれている東鳴子温泉・まるみや旅館のご主人「きくちゃん」さんから、「GWでもお客さんが全然こなくて空いている」というコメントが。そんなことなら、この機会にぜひ行ってみようと出かけることにしました。東鳴子はけっこう好きな温泉場で、これまで3回行っていますが、まるみや旅館さんは初めて。自炊専門の湯治宿なので、私としては久しぶりにのんびり温泉に入ったり、昼寝をしたりしてやろうという計画です。

今回は新潟経由で日本海側を酒田まで出て、さらに新庄から山越えで鳴子温泉郷をめざすという遠回りルートを取りました。新庄から陸羽東線の普通列車で山を越えると、鳴子峡を経て鳴子温泉駅に到着。東鳴子温泉は、さらにこの隣の「鳴子御殿湯」という駅なのですが、この日は自炊宿に泊まるわけなので、鳴子温泉駅周辺で食糧を調達するために下車しました。駅の近くの惣菜屋でおにぎりとか、アジフライとか、煮物なんかのおかずを買い、ビールも買って再び電車で鳴子御殿湯駅をめざしました。

DSCN5919

小さいけれど、けっこう新しいきれいな駅です。まるみや旅館さんに行くのは初めてですが、この駅には何度も来ているのでだいたいの場所はわかっています。前に泊まったことのある宿のすぐ隣でした。

旧街道に面した東鳴子温泉のメインストリートはこんな感じ。郵便局を兼ねた商店もあって便利。

DSCN5915

まるみや旅館はこの通りの1本裏にあるので、裏通りに入りました。

DSCN5841

このへんの風情からして、もう私としてはたまりません。自炊の温泉場らしい、独特の雰囲気があります。しかもこの温泉場の多くの宿が、今でも自炊ができる宿としてきっちり營業を続けているというのがすばらしいところです。

DSCN5843

左手の建物がすでにまるみや旅館の一部で、横に長くつながっています。その向こうに玄関がありました。

DSCN5845

すごくいい雰囲気です。いかにも自炊で長逗留したくなるような、湯治場らしい落ち着いた建物。古い建物だと思いますが、けっこう手が入っていて、きれいになっています。ご主人は「うちもかなりのボロ宿だ」と自慢していましたが、それほどのボロい家ではありませんでした。

私も「きくちゃん」さんことご主人にお会いするのは初めてなので、どんなようすかと思っていましたが、玄関を入るといきなり出てきて、「やあやあ、ようこそようこそ!!」と、まるで長年の常連客みたいに明るく歓迎してくれました。泣く子も黙る「元湯自炊 まるみや旅館」4代目。いただいた名刺の肩書は「湯守」。温泉へのこだわりと愛情を感じます。

お風呂の場所とかの説明を聞きながら2階の部屋へ。床の間やテレビも完備したすごく広いぜいたくな部屋で、かえって申し訳ない気持になりました。普通自炊で長く滞在する人は、もっと狭いけれどガス台などがそろった部屋に泊まるそうです。この日の部屋は1~2泊程度のファミリー向けで、あまり自炊宿に慣れていない人でも、気軽に泊まれるようになっています。

DSCN5848
DSCN5851

とはいえこの部屋にも冷蔵庫とか食器類が完備されていて、部屋のすぐ前には、清潔で手入れが行き届いた流し台やガス台もがあるので、自炊したいという人にも便利。調理器具や鍋釜、食器、なんでもそろっています。

DSCN5854
DSCN5904

とにかく、初対面にも関わらず、いきなり各地の温泉の話で盛り上がりました。そんな話の中で、私もようやく理解したのですが、湯治宿にもお得意様のエリアがあり、東鳴子温泉は伝統的に三陸方面の漁業関係者が多い温泉場だったそうです。今回の震災および津波被害によって、そうした常連客の足が途絶え、連休にも関わらず空いているという状況だということでした。しかも今後の復興事業は否応なしに長期化するわけで、先行きも不透明。結果的に直接的な被害が少なかった東鳴子温泉の宿も、経営が圧迫されているという状況のようです。

ニュースなどで見た限り、鳴子温泉郷では被災者を受け入れていると思っていましたが、一部の大規模施設は受け入れているものの、小規模な自炊宿ではそんな需要もなく、逆に本来の常連客が湯治滞在を遠慮するという、いってみれば悪循環にあるそうです。そんなことになっているとは東京にいて想像もできませんでした。

さて、部屋で話していると、きくちゃんさんが「鶏肉は大丈夫ですか?」と聞くので「大丈夫です」と応えると、「トマトは?」「にんにくは?」「ピーマンは?」などと続けざまに聞いてきます。実は夕食に得意料理を一品出してくれるということで、しめしめと 恐縮しながらもごちそうになることにしました。

夕食までのあいだ、まずはお風呂へ。ここのお風呂は自家源泉の男女別の内湯と、赤湯共同源泉の混浴の大浴場があり、いずれも源泉をかけ流しています。まずは混浴の大浴場へ行ってみました。

階段や廊下の雰囲気もいかにも自炊宿。私としてはこういう雰囲気だけでうれしくなってしまうのですが、階段をおりてすぐにお風呂があり、いつでも何度でも入れるという温泉天国。もう帰りたくなくなりそうでした。

DSCN5858
DSCN5861
DSCN5866

混浴大浴場は、大浴場とはいってもそれほど大きくはないのですが、源泉が次々と注がれていて、お肌にやさしい触感。前に泊まった東鳴子の高友旅館は石油臭のする黒いお湯でしたが、それよりやさしい感じです。

あとで男女別の内湯にも何度も入りましたが、こちらは少し濁りがあって、さらにお肌にいい感じがしました。いずれもいくつかの源泉が混合されているようで、なかなか奥深い印象でした。

DSCN5877

この日は長期滞在の客を含めてほかに3人程度しか泊まっていないということで、基本的にお風呂は常に独占することができました。すごいぜいたくです。きくちゃんさんによると、宿泊客を重視するということから日帰り入浴も受け付けていないそうで、その意味でも安心してくつろぐことができると思います。

さて、夕食時間の前に下に偵察に行くと、きくちゃんさんが何やら調理していて、バジルのいい匂いが漂っていました。奥さんが「今いっしょうけいめい作っていますよ~(笑)」というので、2階で楽しみに待っていると、ついにきくちゃんさんが料理を持って登場!!

DSCN5887

鶏肉のトマト煮込み。カチャトーラとか何とかいうそうな。山の湯治場にきて、こんな料理を出していただけるとは意外でしたが、きくちゃんさんは自らも各地の自炊宿を回っていて、その時によく作るそうです。「一番安い肉を買ってきてもおいしくできるので」ということでしたが、本当にいい味が出ていました。「味はともかく、心を込めて作りましたから(笑)」といってましたが、すごくおいしかったです。「ふだんはやらないけれど、今日はおなかにたまるようにパスタを下に敷いてみました」ということでした。

隣のふきの煮物は私が鳴子温泉で買ってきたやつ。漬物はきくちゃんさんが出してくれたのですが、これももすごくおいしかったので「自家製ですか?」と聞いてみると、「いや、どうかな。わからない」ということでした。奥さんが自分で漬けたり、買ってきたりするのでどっちかわからないそうです(笑)

とにかくこういうものを食べながら、ビールを飲みました。きくちゃんさんは「まだこれから到着するお客さんがいるので、少しだけご一緒させてください」といっていましが、結局途中抜けたりしながらもかなり遅くまでつきあってくれました。

それにしても、いろいろ旅の話を聞いたり、以前に訪ねた温泉の写真を見せてもらったりする中で、このご主人はつくづくただ者ではないな、と思いました。各地の有名旅館の経営者はもちろん、いろんな温泉関係のジャーナリストなどとも知り合いらしく、相当顔が広いようです。温泉文化に関わるいろんな活動にも積極的に参加しているような感じでした。

私のブログについても、「おもしろいけれど、“ボロ宿”というなら、東と西の横綱クラスが入っていない」と指摘されました。その横綱クラスというのはいずれも自炊の湯治宿で、横向温泉の「中の湯旅館」、川内高木温泉の「双葉屋」だそうです。そのほかにもいろいろ教えてくれたので、こっちも酔っぱらってしびれた頭ではありましたが、途中からメモを取りながらまじめに聞きました。

初めて会ったのにこんなにおもしろく、楽しく飲んでしまう、なんてことができたのはご主人のへだてのない人柄のおかげでしょう。さらに“温泉好き”という共通点があったからでしょうか。きくちゃんさんとしては、温泉に行くにもいろいろこだわりがあり、まず絶対に自炊ができるところ。さらに混浴があるところをターゲットにしてきたそうです。やはり本来の古い温泉文化を大切に思っているということなのでしょう。

私はただボロ宿が好きなだけで、知識も見識もありません。そんな私にとっても、なかなかためになる話が多かったです。

途中から日本酒になり、遅くまで引き止めたあげく、12時過ぎに解散しました。しかし、私はせっかくなので何度もお風呂に入ろうと、朝4時に起床。外はもう明るくなってきていました。通りには誰も歩いていませんが、素朴で落ちつけるいい雰囲気です。

DSCN5891

こういう宿にきてしまうと、1泊で帰るのがいやになります。料金も安いので、今度はぜひとも滞在させてもらおうと思いました。

この日、朝食にはきくちゃんさんがチャーハンを作ってくれました。これもすごくいい味のおいしいチャーハン。「料理なんかほとんどできない」といっていたのですが、得意な料理についてはそうとうこだわって作っている感じがします。

DSCN5902

本来、自炊の宿なのでこんなサービスは受けられないのですが、まるで昔からの知り合いみたいに親切にしてくれて、本当に感激しました。

まるみや旅館はなじみ客に支えられてきた自炊宿ですが、いきなり一泊でいっても十分楽しめると思います。自炊が面倒だという人でも、近くに商店があるほか、出前なども頼めるので問題はありません。宿の自販機のビールなども定価販売しているので、大量にビールを飲む人でも特に準備をしなくてもオーケーです。

それとこの宿ではチェックインは朝10時くらいから、チェックアウトは午後2時までと、滞在可能時間がものすごく長くなっているのが便利。例えば昼頃到着してチェックインし、荷物だけ置いて鳴子温泉の共同湯巡りに出かける、なんてこともできるわけです。「でもだいたいこのへんの宿のチェックインとかチェックアウトの時間なんて、一応決めてあるだけで、実際は応相談て感じですよ」といってました。そういうところも自炊宿の良さかもしれません。

この日も「いくらでもゆっくりしていってください」といわれたのですが、私はこの日、できれば東京に帰りたいという事情があり、さらにできれば海岸の被災地のようすも見ていきたいと思っていたので、9時過ぎくらいに出発しました。

でがけに「この宿のこともブログに書かせてもらいます」というと「全然かまいませんけど、ちょっと恥ずかしいなぁ~」などといっていました。これまでこのブログでは、泊まった宿のことを勝手に紹介してしまい、しかも“ボロ宿”などいうタイトルなので、たぶん怒っている経営者の方もいると思います。忸怩たる思いです。しかし今回だけはご主人が公然と認めてくれたので、何の遠慮もなく、堂々と紹介することができます(笑)

勝手にきくちゃんさんの顔写真も載せてしまいます。自炊宿のご主人といっても、まだお若くて気さくな方でした。

DSCN5911

奥さんが美人だったのですが、残念ながら写真を取り忘れました。最後はご夫婦と息子さんも見送りに出てくれて、小学生くらいの息子さんが「バイバイ、またきて下さい」といってくれたのでうれしかったです。ウルルン滞在記のような気分で宿を後にしました。

さてこのあとは、駅でいろいろ考えたあげく、陸羽東線で小牛田まで行き、東北線に乗り換えて松島まで行ってみました。石巻や気仙沼方面にも行きたかったのですが、今回は時間的に無理とみて、あきらめました。

DSCN5927
DSCN5939

瑞巌寺門前のおみやげ屋さんも被害があったようでしたが、観光客はそれなりにいました。私としてはなるべく地域の復興に協力したいと、蔵王高原バニラソフトを食べてきました。あと「萩の月」を2個買いました。

DSCN5947
DSCN5954
DSCN5949

そのあと、仙石線がまだ一部しか復旧していなので、JRの代行バスで塩釜へ。やはり被害にあって、連休前に再開したという本塩釜駅近くのお寿司屋さんでお昼を食べました。板前さんは多賀城市に住んでいてクルマ2台流されたり、大変だったそうです。しかも付近にはまだなまなましい爪痕が残っていて、不謹慎かとも思いましたが、支援のためなので昼間っからビールも飲んできました。

DSCN5993
DSCF4255

その後仙台まで行ってみると、運良く新幹線のチケットが取れたので無事にその日のうちに帰京。もしうまく新幹線に乗れなければ、どこかにもう1泊するしかないかと思っていました。

今回はまるみや旅館さんのおかげで、震災後の大変な時期にも関わらず宮城県を回ることができました。本当にその節はありがとうございました。貴重な温泉文化を守ってきた宿。どうかこれからも長く繁盛してほしいと思います。

東鳴子温泉に行く前に寄った新潟~山形方面については、また次回以降にリポートしたいと思います。

[東鳴子温泉  まるみや旅館](2011年5月訪問)
■所在地 宮城県大崎市鳴子温泉字赤湯33-2
■泉質  ナトリウム炭酸水素塩泉(源泉かけ流し)
■楽天トラベルへのリンク→東鳴子温泉 元湯自炊 まるみや旅館

人気ブログランキングへ にほんブログ村 旅行ブログ 温泉・温泉街へ