松山から周防大島に渡るという企画は、周防大島の伊保田港に船が寄港しないため、変更を余儀なくされました。
本土の柳井に渡り、そこから周防大島に戻るようにバスで島に渡る作戦。
ラウンジ風の客席や、雑魚寝もできるフロア席。しかしあまり客はいなくて、こんなに空いていて利益は出ているのでしょうか。
しばらくするとすぐに周防大島が見えてきます。周防大島は正式には屋代島というそうで、瀬戸内海では淡路島、小豆島についで3番目に大きな島なので、遠くからでもすぐにわかります。何といっても民俗学者・宮本常一氏の故郷として有名。彼はこの島での昔の暮らしについて、いろんな著述で紹介しています。
ほかにも大小の島がたくさん並んでいる諸島海域。これなら小さな船でも本土と伊予方面の交通は何とかなりそう。昔から交流があったことが実感できます。
さらに進んでいくと、船は周防大島と、隣接する情島の間のせまい水路を通っていきます。
この情島が、本当なら町営渡船で渡ってみたいと思っていた島でした。その昔の映画「怒りの孤島」の舞台。古くからこの島の漁村では伊予方面から子供を雇ってきて、漁の下働きをさせる風習がありました。それが終戦後の自由主義的な時代背景の中で、一方的に児童虐待と見なされ、問題になったという実話をもとにしています。昔の農家が、食わせられない子供を他郷に出すというのは全国的にあった話ですが、ここも同じようなことが行なわれていたのでしょう。
映画を見たことはありませんが、あまり事実に即しているとはいえないようです。実際のところどんな状況だったのかはわかりません。しかしひとつだけいえるのは、現代の感覚で当時の営みを裁くことはできないということです。
この情島が現在ではどんな感じの島になっているのか。ぜひ寄ってみたいと思っていました。そのほか周防大島付近には沖家室島とか、浮島とか、笠佐島とか、いくつか興味深い小さな島があり、宿もありそうだったのですが、時間も足もないので、今回はあきらめることにしました。
とにかく柳井まで行ってからだとたぶん島に到着するだけでやっとなので、そんな時間はとれそうにありません。
船が周防大島の北側を回っていくと、上陸予定だった伊保田港付近の集落や、今日の宿になると思われる集落、小さな島などがたくさん見えます。
そして本土と周防大島をつなぐ大島大橋をくぐって船は柳井港に到着しました。お昼頃だったと思います。
ここから周防大島に行くバスも出ているはずでしたが、調べると夕方までありません。最寄駅の「柳井港」から山陽本線で一駅の「大畠駅」まで行くと、バスの本数が多いようです。
おなかがすいているのですが、このへんに飲食店は見当たりません。大畠まで行けば何か店があるかと思って、とにかく柳井港駅へ。
かなりさびれた感じの駅です。次の列車までの時間も、特に時間をつぶせるような要素はありません。
しかたがないので、ホームのテントウムシが、コンクリートの割れ目に落ちないかどうかを見張りながら時間を過ごしました。
列車がようやく来て、これに乗りこんで隣の大畠駅へ。大畠駅付近に近づくと商店や飲食店らしきものも少し見えました。
周防大島に渡るバスは1時間くらいあとに出ます。その間にお昼を食べようと思って、駅の隣の海鮮料理屋に行ってみると、すでに廃業していました。
駅前には、背後に仏像を背負った宿を発見。こういう宿もおもしろそうです。
駅に貼りだしてあった地図を見ると、線路に沿って商店街がありそうなので行ってみました。
しかしこんな感じ。
ついでに踏み切りも渡ってみました。するとすぐに海。この後バスで渡る大島大橋も見えました。
駅正面にもどり今度は逆方向にいってみると、コンビニ発見。このまま島に渡っても、食事できるかどうかわからないので、こうなったらコンビニでなにか買っておこうと思いました。今日の宿は素泊まりなので、夕食も何か考えておかなければなりません。
しかしコンビニに入ってみると「リニューアルのため本日から休業」。一応店は開いていて、少しばかり商品がありました。
ここで大きな「山賊むすび」というおにぎりを1個購入。これさえあれば最悪の場合でも、何とか今夜を過ごせるというもくろみです。
やがてバスが来て、大島大橋を渡りました。とにかく足がないのでバスと徒歩だけが頼り。島を見て回るにも限界があるのが残念です。
バスでは例によって一番前に座りました。島に入って「久賀」という大きな集落のバス停に止まると、運転手さんが声をかけてきました。「お客さんはどちらまで?」
それでふと後をふり返ってみると、数人いた客は私だけになっていました。私はとりあえず宮本常一氏の生家に近い、道の駅「サザンセトとうわ」をめざすつもりでした。確実にお昼が食べられそうなのは、道の駅ではないかと狙っていたのです。そこで「サザンセトとうわという道の駅に行きたいのです」と答えました。
「それだとバス停は長崎か下田あたりですね。まあ、そこまで行ったら私が声をかけますから大丈夫です。ここまで早く着いちゃったので時間調整をしていますけど、もう少ししたら発車します。あまり早く行くと、この先のお客さんが困りますから(笑)」ということした。
ついでなので尋ねてみました。「実は今日泊まるのは“我が島荘”という民宿ですが、道の駅からだとどれくらいありますか」
すると運転手さんは「そうですね~、あそこは道の駅から少し戻った丘の上にあって、2kmくらいですかね~。そこも通りますから、通る時教えますよ」といってくれました。これで安心。2kmくらいなら十分歩いて行けそうです。
車中で「こんな時期に来る觀光客というのも少ないでしょうね」と聞いてみると、「いや、この前も終点まで行くというお客さんを乗せましたよ。それで次のバスで戻って、浮島に渡るといってました。お客さんも浮島に渡るなら、「土居」というところから船が出ています」と教えてくれました。
やがてバスは「長崎」というバス停に到着。道の駅を教えてもらい、バスを降りました。
親切な運転手さんの乗ったバスが去って行き、一人残されると何となく心細い気分。
道の駅はけっこう大規模で売店などもいろいろありました。裏側には展望デッキみたいなものもあり、海や小島の風景がきれい。しかし客の姿はほとんど見当たりません。2階に食堂があったので、ようやくお昼を食べることができました。もう3時過ぎくらいになっていました。
今日の夜は、宿で「山賊むすび」を食べることにして、ここでは豪華なサザエつぼ焼き定食。少しは島にきた気分が出てきました。
さて4時くらいになり、寒いし疲れたしで、もう宿に向かうことにしました。途中、バスの運転手さんに教えてもらったので宿の場所はわかっていますが、歩いてどれくらいかかるのか。まあのんびり行くことにしました。
周防大島は、島にあったいくつかの島が合併してできた大きな町で、集落がいくつかあります。本土に近い西側にも大きな街があるのですが、バス便は少ないし、特にこの東側のほうはバスが少ない感じ。やはり足がないと効率的に動くのはなかなか難しいです。
歩いていると廃墟のような変な定食屋発見。「限定20食。サラリーマン定食750円」と出ています。こんなのがあるのなら、こっちで食べてもおもしろかった。
長崎という集落はまさに宮本常一氏の生まれたところです。彼の本を読んでいると、昔はもっと東のほうに村の中心があり、その西はずれに分家してきた家だとか。当時は人家などはほとんどなかったそうですが。
目の前に「真宮島」や「我島」も見えます。
宮本氏の本では、我島と真宮島が鳥のねぐらで、夕方になると一応お宮の森に集まって、それから沖の島に帰っていくのが壮観であったと書いてあったような気がします。
そのお宮らしき八幡様の鳥居もありました。このお宮についてもいろいろ話があるのですが、これから歩くことを考えると大変そうなので、上って参拝するのはやめておきました。
通りに面した「周防下田駅」。駅とはいっても要するにバス停です。
日が落ちかけてますます寒くなってきました。向こうに見える丘のあたりに宿があるはずです。もうすぐ。
それにしてもこのへんは古い家が多く、なかなか風情がありました。昔とはまったく変わっているのでしょうが、路地などに入り込むと、それなりに懐かしい雰囲気も残っています。
この島はみかんの有名産地なので、無人販売もたくさんありました。
ようやく宿に到着。この宿は道路に面した飲食店を経営しており、その裏に宿があります。電話した時に、「今飲食店を休んでいるので食事は出せないけど、素泊まりなら受けられる」ということでお願いしました。
声をかけると女将さんが出てきて部屋に案内してくれました。「今日のお食事は何か用意してありますか。もし買い物したいなら、コンビニまでクルマで送りますけど」といってくれました。しかし私は「山賊むすび」を持っている上に、すでに長崎の酒屋で地酒のワンカップを買ってきたので、「必要なものはすべてそろっているので大丈夫です」と答えました。
意外なことに民宿棟はきれいで新しく、ロビーはカフェみたいな作りになっていました。ほかに客はいないみたいです。
ここからの眺めもきれい。正面に見えるのが「我島」らしいです。
部屋も広くてきれいで、入口付近には近代的なバスルームやトイレもそろっていました。すべて共用の古い民宿とは大違い。
ベランダもあり、部屋からの眺めはすばらしい。真冬の夕方なのでいまイチですが、たぶん夏なら最高の立地ではないでしょうか。
私は今夜別にやることもないので、とっととふとんを敷きました。
やがて日が落ちてきました。しかし島に帰る鳥の姿は発見できません。
3時過ぎにお昼を食べたのですが、7時くらいに「山賊むすび」を食べて、地酒を飲みました。
何だか季節外れの島に来てしまって、かなり寒々しいというか、寂寥感を感じます。明日は東京に帰るしかないのですが、翌日の計画を検討。昼間のうちに集めた観光マップを見ながら、バスでも寄れるようなところはないかと調べながら、いつのまにか寝てしまいました。
またしても長くなり過ぎてしまったので、この続きは次回(後編)に回します。