日本ボロ宿紀行

ボロ宿にあこがれ、各地のボロ宿を訪ねています。

2011年05月

「ボロ宿」というのはけして悪口ではありません。
歴史的価値のある古い宿から単なる安い宿まで、ひっくるめて愛情を込めて
「ボロ宿」といっています。自分なりに気に入った、魅力ある宿ということなのです。
もともと、できるだけ安く旅行をしたいということから行きついた結果ではありますが、
なるべく昔の形を保って営業している個性的な宿を応援していきたいと思います。
湯治宿や商人宿、駅前旅館など、郷愁を誘う宿をできるだけ訪ねて、
記録に残していくこともいずれ何かの役にたたないかなと‥‥。

車窓から見た気になる街道町の商人宿 [千厩 勢登屋旅館]

ゴールデンウィークに酒田から東鳴子温泉、さらに松島、塩釜あたりと東北地方を回ったのですが、その直後に、今度は仕事で気仙沼に行く用事ができました。

せっかくなので気仙沼で一泊しようと思っていたのですが、市内の宿は満室で取れず、しかたがないので気仙沼から大船渡線で20~30分一ノ関よりに行ったところにある千厩という町にある宿を予約しました。

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気仙沼に泊まれないのは不便ではあったのですが、このあたりも一度ゆっくり訪問してみたいと思っていたところです。これまで何度か大船渡線に乗る機会があり、途中の「摺沢」とか「千厩」という駅前が山中にも関わらず妙に人家が多く、古そうな建物が多いことを不思議に思っていました。

なぜこういうところに大きな町があるのか。この機会にその秘密を探ってみようかと。

ただちょっとネットで調べてみると、このあたりも震災後のボランティアの拠点になっているようで、気仙沼とか南三陸、大船渡あたりで働く人が、大勢泊まっているような気配でした。

しかし千厩の「勢登屋旅館」という宿に電話してみるとあっさり素泊まりで頼むことができました。どんな宿かはまったく情報なし。

気仙沼を夕方6時発の電車に乗って千厩駅に到着。もう暗くなりかけていました。

駅前はこれまでも車窓からみたように大きなロータリーになっていますが、実際に営業している店はほとんどなし。タクシーは何台かいました。駅から歩いて何分くらいなのかわかりませんでしたが、駅からの1本道に沿った旅館だし、そんなに遠くはないだろうと思って歩き始めました。

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歩き始めて思いましたが、どうも古い街道みたいな雰囲気です。昔の宿場だったのかどうかわかりませんが、たぶん古くから栄えてきた交通の要衝みたいな雰囲気です。

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素泊まりなのでどこかで食事もするつもり。宿には到着は遅くなるといってありました。

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しかしどうも飲食店が見当たりません。ようやく10分くらい歩いたところに中華料理屋発見。もう選択する余裕はないと見て、すかさずここに入りました。

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中は普通の中華料理屋さん。ビールと餃子とラーメンで食事。すごくおいしいシンプル系ラーメンでした。

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店を出るともう真っ暗でした。さらに歩き続けましたが、なかなか宿が見つかりません。だんだん不安になってきました。

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人通りはまったくなく、たまにクルマが通りかかる程度。根本的に道をまちがえているのではないかと心細くなったりしましたが、その可能性は少ないとみて、ひたすら歩きました。

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ついに宿を発見。駅からまっすぐ歩くと15分か20分程度だと思いますが、すごく遠く感じました。

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外観はそんなにボロくないですが、さびれたいい雰囲気です。

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宿に入って「こんばんは」と呼ぶと、おっちゃんが出てきて2階の部屋に案内してくれました。部屋に荷物を置くと、おっちゃんが「先にトイレとかお風呂を案内しますから」というので、そのあとをついていきました。

廊下には明かりもなく、真っ暗。階段の電気は接触が悪いのか、ついたり消えたりしていました。

「このあたりは地震の被害はなかったんですか」と聞くと、「まあ、揺れたけれどそんなに大きな被害はなかった。でもここらでは古い蔵がずいぶん崩れたね。うちも壁がひび割れたりね」

確かに壁がひび割れて少し崩れた跡も残っていました。

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お風呂は「入りたくなったら、いってくれればすぐ準備しますから」というので、「もう食事もすませたし、すぐに入りたい」というと、「じゃあ10分くらいで入れますから、特に呼びには行きませんが、入ってください」ということでした。

改めていったん部屋に戻ると、なかなかの部屋です。これはけっこうすごい。

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テーブルもありますが、このテーブルにひじを乗せて体重をかけてやれやれと思っていると、テーブルの脚が相撲の股割のように開いて、次第に沈んでいきます。あわてて体を起こしました。

テレビもありました。

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やっぱり白黒。白黒でも星野監督が不機嫌そうなのはわかる(笑)

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そのほか何の備品もなし。歯ブラシやタオルなんかもないのですが、そのへんは予想していたので特に問題はありません。しかしハンガーもないので、スーツをタオルかけにかけるなど、いろいろ苦心しました。

お風呂は普通。お湯もよく出ました。ほかの客がいないと思ったので、風呂からでがけに開けっ放しでタオルで体を拭いていると、工事のおっちゃんらしき2人がトイレにきて「こんばんは」と挨拶していきました。パンツだけでもはいていてよかった。

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宿のご主人の話によると、この宿は確か昭和24年といっていたと思いますが、戦後まもない頃の創業。その後岩手国体の開催に合わせて大規模な補修をしたそうですが、岩手国体っていったいいつのことでしょうか。

料金の確認をしていなかったので、最初は素泊まりで3000円か3500円くらいか、と思っていたのですが、このボロさだと、2000円台もありうるな、と思いました。

まあ、私としてはすごく気に入ったので、お風呂のあとは部屋でのんびりすごしました。

早めにふとんに入って翌日の計画を考えたり、テレビを見たり。翌日は宮城の白石に泊まる予定だったので、それまでどこに寄ってみようか、などなど。そんなことをしているうちに寝てしまいました。

明け方、驟雨の激しい音で目が覚めました。「雨だとすると、どこに行くにしても面倒だな」と思いましたが、すぐにあがりました。

明るい中でみると、かなり古い宿だということがわかります。ちょっと大きそうな部屋をのぞいてみたら、いい部屋でしたが布団部屋になっていました。

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裏のほうは家族の居住スペースだったんでしょうか。

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朝食も頼んでいないので、8時台の電車に乗るために早めに宿を出ることにしました。

料金は3000円でした。出掛けにおっちゃんと話してみました。

私 「戦後すぐの創業ということだと、この宿はご主人が始められたんですか」
おっちゃん「いやいや、うちのばあちゃんが始めた。私はまだその頃はまだ子供だった」
私 「あっ、やべっ失礼しました。そりゃそうですよね。でもこのあたりに、なんでこんなに大きな町があるんですか」
おっちゃん 「ここは一関と気仙沼をつなぐ街道の拠点で、東磐井郡の中心地だったんですよ。昔はタバコの一大産地でね。それと繭だね。そういうことで通行する人も多かった。今はバイパスができてしまったけどね」
私 「それにしても、こんないい雰囲気の通りが残っているなんていいですね」
おっちゃん「子供の頃は本当によかったよ。クルマなんて通らないし、にぎやかな通りだったんだ」
私 「知らないでくると、いきなり大きな町があるんでびっくりしますよね」
おっちゃん「そういえば、つい5月の初めに“夫婦岩サミット”がこの千厩であって、全国から人が集まったんだよ。千厩にも、ここから駅に行く道沿いに大きな夫婦岩があるから、見ていくといいですよ。それは大きいもんだよ」

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そんなことを教えてもらい、名残を惜しみつつ宿を出ました。久しぶりの見事なボロ宿だったので、うれしくてしょうがありませんでした。

宿を出るとすぐ向かいにも宿がありました。「旅館こんけい」。こっちは少し洗練された感じかも。でもなかなか良さそうです。

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昨夜は暗くてわかりにくかったですが、外観はきれいなタイル貼り。駅まで歩く通りには、やはり古い風情のある家が多かったです。

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路地にもつい入ってしまいたくなるような趣が。

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ここは元は旅館か料亭でしょうか。現在は商売をやめているようでした。これが宿で、営業していたならぜひ泊まってみたかった。

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のどかな川も流れていました。

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地元中学生が「おはようございます」と挨拶をして通り過ぎていきました。私にもあんな純真な頃があったのに‥。

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途中で夫婦岩も発見。なかなか見事なやつなので驚きました。“夫婦岩サミット”なんて、まったく知りませんでした(笑)。なんとなくおごそかな感じなので、思わず拝んで、さらに駅に向って歩きます。

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古そうなだんご屋さんもあって、すでに店を開けていました。こんなのがあるということは、やはり街道筋ならではかも。

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駅前に到着。ちょっとミスマッチな像と廃業した店舗群が、過去の繁栄を伝えています。

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10分くらい前に改札にいくと駅員さんが、「ここのところだいたい遅れますけど、もう入りますか」というので、「入って待ちます」といってホームに向かいました。東京までの普通乗車券を買ってあったので、乗り降り自由自在。


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のどかな駅風景です。気仙沼で宿が取れなかったおかげで、前から気になっていた古い町に寄ることができました。古い街道の雰囲気を残した、本当に趣のある町でした。

[千厩  勢登屋旅館](2011年5月宿泊)
■所在地  岩手県一関市千厩町千厩字町25

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ついに本が完成しました!!

この前からしつこくお知らせしてきた「日本ボロ宿紀行」出版の件ですが、ついに手元に本が届きました。

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実際に書店に並ぶのは27日頃になるそうですが、すでにだいぶ前からサイドバーにも掲載しているとおり、Amazonにもエントリーされていて、そこで購入することもできます。

そのへんをちゃんと告知しておかないと、「ぜひほしいのでAmazonのページを教えてほしい!!」とか、「何としても手に入れたいが、近くに大きな書店がない」、あるいは「内容には興味はないが、出版社に寄付したい」などという方がいたら困ると思うので、再度ここでも紹介しておきます。

日本ボロ宿紀行日本ボロ宿紀行
著者:上明戸 聡
販売元:鉄人社
(2011-05-27)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

ブログに載せていない単行本用の書き下ろしネタも、宿泊した宿数でいうと6軒分入っています。カラーページも少しあり。

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諸般の事情で、ブログとは雰囲気を変えている部分もありますが、写真もたくさん載せていますので、なるべく購入して、立ち読みでけっこうですので見ていただければと思います。

なにとぞなにとぞ、よろしくお願いいたします。

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大正末期の商家建築。「おくりびと」の世界にひたる [酒田 最上屋旅館(後編)]

「最上屋旅館」の後編です。

とにかく夕方宿に到着して、通された部屋がすごく気に入りました。

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欄間もなかなか凝った造りになっています。

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急な階段から廊下が続いていて、廊下が喫煙スペースになっていました。屋根裏の隠れ家みたいな部屋なので、窓からは隣の瓦屋根しか見えません。

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部屋につくとご主人が、「お風呂は家族風呂ですが、今お客さんが入っているので、空いたらお知らせします」ということで、しばらく待ちました。やがて内線電話で空いたと知らせてきたのでお風呂へ。1階の廊下の造りなども、よく見るとなかなか風情があります。

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お風呂は意外に広くて、中から鍵がかかるのでゆっくり独占して入ることができます。

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そんなことをしているうちに食事の時間になりました。食事は1階の小さな食堂でとります。ごはんは炊飯ジャーが置いてあって基本的にセルフ。刺身や鍋が付いたなかなか豪華な夕食でした。何組か客がいましたが、先に席についていた夫婦の客は、ごはん3杯ずつ食べていました。

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実際、ごはんがおいしかったので女将さんに聞いてみると、やはり地元産の米で、いろいろテストした結果、これが一番おいしかったということで選んだ米だそうです。なんだかんだいって、またもビールとお酒を飲んでしまいました。

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食事のあとは、さらに部屋で村上で買った地酒を飲み、けっこう酔っぱらって早く寝てしまいました。この日はけっこう寒かったのでガスストーブを付けてみたりしましたが、ふとんに入ってしまうとすぐに熟睡。昼間かなり歩いたので、ちょっと疲れていたのかもしれません。

朝目が覚めるとすでに明るくなっており、すごくいい天気です。

朝食も同じ食堂で。

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食後部屋に戻ると、すでに布団は片づけられていました。しかし改めて見てみると、布団が敷いてあった部屋は階段のすぐそばにあり、障子はあるものの、もし寝相がものすごく悪いやつなら、一気に1階までころげ落ちてしまう危険はないのでしょうか。

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でがけにご主人が「今日は天気がいいので鳥海山もよく見えます。前はこの宿からも見えたんですが、隣にビルが建ったので、今のおすすめ眺望スポットは隣のビルの2階です(笑)」と教えてくれました。

確かに隣には小さな商業ビルが建っていて、その外廊下に勝手に入ってみると、鳥海山がきれいに見えました。しかしもう少し高いところから見てみたい感じ。手前の木がじゃまです。

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この日は夕方までに陸羽西線で新庄まで行き、さらに陸羽東線に乗り換えて鳴子温泉に行く予定でした。時間的にはけっこう余裕があるので、酒田市内でまだ見ていない旧武家屋敷の本間家旧本邸を見に行くことにしました。宿を出たのは8時30分くらい。

きのう歩いた旧鐙屋前の道の並びに本間家旧本邸があります。ちんたら歩いていると、松尾芭蕉ゆかりの地の標識がいくつかありました。

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あのおっちゃんはいろんなところに泊まっているんだな、と思いながら、本間家に付くと、10時オープンということでまだあいていませんでした。

向かい側に別邸があって、そこの人に聞いてみると「今の時間ならこの先の鐙屋という回船問屋の跡が開いています」ということでしたが、しかしそこはもうきのう見ています。

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「それなら、川沿いに山居倉庫というのがあるのでいってみたらいかがですか」というので、それは見ていないので行くことにしました。時間をつぶして待ってまで本間さんの旧居を見たいわけでもないのですが、事のなりゆきというか、10分くらい歩いてその「山居倉庫」へ。

途中の道端におしんがいました。こういう像は酒田の各地にありました。

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山居倉庫に到着。江戸時代の米倉みたいななかなか雰囲気のある一帯です。

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荷物を運ぶ川船なども残されていて、展示してありました。ここから川に降りられるので降りてみました。なかなかいい風情。

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倉庫の裏手にはけやき並木があってすごくきれいないいムードの石畳の通路になっていました。

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しかしここも後で見たら吉永小百合に先を越されていました。

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この人は東北各地に出没していますね。

ここにおおきなおみやげ屋さんやカフェがあったので時間をつぶし、いよいよ旧本間家本邸に戻りました。

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なかなか立派な家でしたが、中は写真撮影禁止。しかも、この2日間、古くて大きな家をずいぶん見たので、それほどの感動はありませんでした。でもなかなかいい家であったことは確かです。

この後は近くにタクシー会社があったので、そこでクルマを出してもらって酒田駅に戻りました。

駅に行ってみると電車まで1時間くらいは待ち時間があったので、駅ビルでおみやげを買ったり、玉こんにゃくを食べたりして時間つぶし。

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ここのトイレに入ってみたら、ソファー付きのやたらと豪華なトイレなのでびっくりしました。

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このあと、陸羽西線の普通電車で新庄をめざしました。車窓からは左手に鳥海山、右手に月山が見えるという、なかなかの風情。

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山にはかなりの雪が残り、このへんはの田んぼもまだまだ田植えが始まっていませんでした。このへんの田んぼでチェロでも弾いてみたい。なんちゃって。

新庄では、乗り換え時間が5分くらいしかなく、あわてて松尾芭蕉先生などの写真を取りました。

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ここからの陸羽東線はまたも普通電車。山形~宮城の県境を抜ける山越えの道です。

そういうわけで、「おくりびと」ツアーはようやく終了。そんなにちゃんと回ったわけではありませんでしたが、「最上屋旅館」さんが期待以上にいい風情だったのと、酒田の町の歴史を感じさせる趣もよかった。

いまさらといいつつも、訪ねてみてよかったと思いました。

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[酒田  最上屋旅館](2011年5月宿泊)
■所在地  山形県酒田市中町2-2-16
■楽天トラベルへのリンク→最上屋旅館<山形県酒田市>
 
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大正末期の商家建築。「おくりびと」の世界にひたる [酒田 最上屋旅館(前編)]

今年のGWは村上に一泊した後、酒田に回ってさらに一泊する計画でした。

酒田にはどうしても泊まりたい宿がありました。「最上屋旅館」。大正末期の商家建築で、風情のある宿らしいのですが、2010年の2月に泊まり損ねた宿です。その時は秋田から回る予定でしたが、当日の大雪で羽越線、奥羽線、陸羽西線がすべて不通に。酒田に行く手段がまったくなくなり、やむなく当日キャンセルした宿です。

そのとき電話口に出たご主人は「そういう事情であれば致し方ありませんので、お気をつけてお帰りください。次の機会にぜひお立ち寄りください」といってくれました。

ついにそのときの雪辱を晴らす機会がきたわけです。

村上駅から普通電車で酒田に向かいました。ひと駅ひと駅の車窓の風景を眺めながらのんびり進んでいくと、鶴岡駅に到着。鶴岡も歴史のある町で、藤沢周平文学の聖地。せっかくなので、ここで途中下車してお昼でも食べていこうと思い立ちました。

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駅にある観光案内所に立ち寄って「1時間か2時間で見るとしたらどのへんに行ったらいいでしょうか」と尋ねました。案内所の人は「見どころは駅から少し離れていますが、旧商家跡や藩校跡、博物館などがありますので、そのへんに行ってみてはいかがでしょうか」と教えてくれました。

タクシーでいわれたあたりに行ってもらうと同時に、運転手さんに「鶴岡で軽く食事をするとしたら、どこがいいでしょう」と相談すると、鶴岡公園の周辺にいくつか店があり、「麦きり」といううどんみたいな鶴岡名物が食べられる、ということでした。

5分くらいで目的地に到着し、降り際に運転手さんが「この先が鶴岡公園で、到道博物館なんがあるけど、その近くに店があるから」と教えてくれたので、まずは安心して、最初に到着した「旧風間家住宅  丙申堂」を見学することにしました。

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ここにはガイドが何人かいて、けっこうていねいに説明をしてくれつつ、映画「蝉しぐれ」で、市川染五郎と木村佳乃の2ショットを撮影したという部屋で記念写真を撮ってくれました。逆行でほとんど顔が写っていませんでしたが(笑)。

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とにかく大きな商家で、石を置いた屋根や金庫蔵などいろいろ見どころがありました。ここを見るだけでもけっこう時間がかかります。

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この家の近くに「丙申堂」とセット料金で見学できる「無量光苑  釈迦堂」というのもあったので行ってみました。こちらは風間家の別邸だそうで、建物は小さいですが庭がかなり広い。かなり豪勢な建物で、大事なお客があった時はこちらに泊めたりしたそうです。

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ここの受け付けをやっていたおばちゃんとけっこう話し込んでしまいました。

以前の地震で庭の池が枯れてしまった話とか。実がなる植物は鳥が荒らすので植えられないとか。

私が東京からきて、今日は酒田の古い宿に泊まるというと、「私もやっぱりホテルなんかより、旅館と名のつくような宿がいい。このあいだ東京でホテルに泊まったけれど、カードか何かがないと電気もつかないし、わけがわからなかった」とこぼしていました。

そんなことをしているうちに、お昼を食べるような時間がなくなってしまいました。電車を1本逃すと、次がかなり遅くなってしまいます。駅まで20分くらいだと思いますが、おばちゃんが「タクシーを呼んでやる」というのでお願いしました。

また普通電車に乗って酒田へ。酒田駅のホームにはいろいろ変なのが置いてありました。

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駅前にもあまり食事ができそうな店がなかったのですが、立ち食いそばを発見。私はそれでなくてもこういうのを見ると入ってしまう癖があるのですが、ちょうどお昼を軽く食べるのにちょうどいいと思いました。

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しかし廃業していました‥‥。

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残念。もう2時を過ぎていたので、どうしようかと思いましたが、駅の観光案内所でもらった地図を見ると、「最上屋旅館」の近くには「おくりびと」のロケで使った家などもあります。そこでまずいったん宿に荷物を預けて、それから付近を歩いてみることにしました。宿に電話すると、女将さんがこころよく引き受けてくれました。

駅から宿に行く途中は、どこか寂れた感じで、古い飲食店などが廃業しているのが目につきます。酒田といえば北前船で繁栄した町ですが、以前に大火にも遭っており、昔ほどのにぎわいはなくなっているようです。

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宿に荷物を預けて、身軽に付近を歩いてみました。とりあえず、「おくりびと」でモッくんが勤務していた葬儀屋の事務所「NKエージェント」をめざしました。

そこに行く途中にも、古い料亭みたいな豪華な建物や、時代がかったキャバレーなどがありました。昔の繁栄がしのばれます。

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宿から歩いてそんなに遠くないところに「NKエージェント」がありました。さすがGW、けっこう人がいます。映画の公開からだいぶ時間がたっているので、どうかと思いましたが、それなりに見学客が来るようです。

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映画に出てきた事務所のセットが、だいたいそのままの感じで残されていました。奥のほうに棺桶もディスプレイされたままです。

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ここの3階には山崎努とモッくんがふぐの白子を食べた社長室のセットも残されていました。火鉢やふぐの模型も置いてある、記念写真スポット。

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さらにここに行って初めて知ったのですが、銭湯のおかみさんである吉行和子の死化粧をした部屋もここの1階にありました。

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広末が座っていたあたりには、どこかのおばちゃんが写ってしまいました。

このふとんに実際に寝て記念写真を撮ってやろうかと思いましたが、そういうことをする人はたぶんめったにいないと思ったのでやめておきました。

「おくりびと」関係はここで充分堪能したので、何かお昼を食べる必要もあり、移動することにしました。地図を見ると港のほうに観光市場があるようです。港に向う途中の坂道にも古い大きな家や倉庫のような建物が残されています。このへんも大火の被害には遭わなかったのでしょうか。

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港に行ってみると、期待通り海鮮料理が食べられる店がありました。しかしどれもけっこう豪華で、いまさらこういうものを食べてしまうと、宿の晩ごはんが食べられなくなってしまいます。

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結局アゴだしのうどんを食べることにしました。このうどんがすごくおいしかったので、アゴだしの濃縮だしを買ってきてしまいました。

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港を少し見学したあと、酒田といえば欠かすことができない回船問屋の跡に向いました。「旧鐙屋」。港から市役所方向に坂をあがったところにあります。もうずいぶん歩いて疲れていますが、歩くしか移動手段がありません。

「旧鐙屋」は大きな回船問屋で、その前の通りは江戸時代には多くの回船問屋が軒を連ねていたそうです。建物の中は、変な人形が当時の様子を再現していました。

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回船問屋がどんなに儲かっていたか、よくわかるような、なかなかおもしろい建物でした。

さて、このへんで5時くらいになっていて、少し寒くもなってきたので宿に戻ることにしました。「最上屋旅館」には、3階に屋根裏部屋みたいな4畳半があるので、そこに泊めてもらうように頼んでありました。

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宿に着くととご主人が迎えてくれて「はしごみたいな急な階段ですからお気をつけください」といいながら、部屋に通してくれました。部屋にはすでに預けた荷物が運んでありました。

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4畳半とはいいながら、何と2間続き。思ったよりきれいで上品な感じですが、昭和元年ころの造りのままだそうです。間には小さな襖の仕切りがありますが、かがまなければ通れないサイズ。

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私としては、思ったよりきれいだったけれど、もうこの部屋の雰囲気だけで、うれしくなってしまいました。執念を持って泊まりにきて良かったと思いました。

というわけで、ここまでだいぶ長くなってしまったので、続きは次回にします。

[酒田  最上屋旅館](2011年5月宿泊)
■所在地  山形県酒田市中町2-2-16
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古い城下町風情と塩引鮭を味わうために村上へ [瀬波温泉 ホテル瀬波観光]

今年のGWは、前の記事で書いた通り東鳴子温泉のまるみや旅館さんにお世話になったわけですが、そこまで行くルートについてはいろいろ考えました。その結果、酔狂にも新潟経由で村上に一泊し、さらに山形の酒田で一泊。最後に山越えで宮城県内に入るというルートにしてみました。東北新幹線は再開していたものの、GW中では混んでいるだろうという事情も考えました。

早朝、東京駅から上越新幹線で新潟駅へ。そこから「特急いなほ」で村上をめざしました。朝出ると昼前には着いてしまうという早さ。

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村上といえば、いわずと知れた鮭の聖地。そんなに鮭が好きというわけでもないのですが、古い城下町風情を残す町並みは、けっこうテレビなどで見ていい雰囲気だなあ、と思っていました。

駅前は意外とさびれた雰囲気ですが、少し歩くと、あちらこちらで鮭を干しているのを見かけます。

出発前に宿を決める時、市内のボロ宿を探してみたのですが見つかりません。村上で宿泊というと、海沿いの瀬波温泉にいくらでも観光ホテルがあります。あまりそういう宿には泊まったことはないのですが、温泉に入れるなら、そのほうがいいかなと思い、比較的安いプランが用意されていた「ホテル瀬波観光」を予約しました。

そういうわけで、午後からは村上市内で好きなだけ遊べるので、まずサーモンパークという施設をめざしました。鮭関連の博物館やレストラン、おみやげさんなどが集まっているので、ここでお昼を食べるのが目的。

駅を降りてだいたいの見当で歩いていくと、いきなり良さそうなボロ宿発見。こういうのはネットでは見つけられませんでした。「扇屋旅館」。どうせならこっちに泊まりたかったと思ったのですが、いまさらしょうがありません。

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サーモンパーク周辺はGWなので、それなりに賑わっていました。ここで塩引き鮭を食べたらすごくおいしかったので、早速自宅用に大きな半身を買って、宅配便を頼みました。塩加減はかなりきつめなのですが、単なる塩ジャケとは違う、奥の深い味。

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ここにも軒先に大量の鮭が干してありました。

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あとさざえのつぼ焼きなんかでビールを飲んでいると、ある程度おなかがいっぱいになったので、お昼はそれくらいに抑えて、古い町屋巡りへ。

けっこう歩き回ってみましたが、想像以上に渋い建物が多かったです。どういう商売なのか、今でも営業しているのかよくわかりませんが、いろんな古い店が並んでいます。

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武家屋敷跡もありました。ここは有料だったので外観だけ見学。

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さらに歩き回っていると、「井筒屋」という旅館があり、喫茶店を営業していました。ここも今でも泊まれるならぜひとも泊まってみたいような古い旅籠。松尾芭蕉先生が泊まった跡だそうです。

ここでコーヒーを頼んで待っていたら、ほかのお客のところに店員がやってきて「コーヒーミルがショートして壊れたので、紅茶などではいかがでしょうか」と謝って回っていました。私のところにも来るかと思っていたら、普通にコーヒーが出てきました。私のはゴールドブレンドか何かだったのでしょうか????   謎です。

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そして、狙っていた吉永小百合シーンのお店もついに発見。すごくいい風情の店です。

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大勢の観光客でにぎわってました。数千とかいう鮭がぶらさがっていて、店の人が塩引き鮭の由来などを教えてくれます。村上の人はみんな親切でした。

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近くには粋な黒塀ゾーンもありました。

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そんなことをしているうちに夕方になってきたのでホテルに行くことにして、駅に戻ってタクシーに乗車。瀬波温泉といえば日本海に沈む夕日が有名なので、それに間に合うようにチェックインしないとしょうがありません。

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外観は上の写真のような感じ。少し昔の観光ホテルという雰囲気。私の感覚からいうと豪華ホテルなので、ぜいたくかなと思いましたが、たまにはいいかなと。そういうわけですので、このホテルは“ボロ宿”ではけっしてありません。

部屋は普通の洋室。ただし、全室オーシャンビューだと思います。

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1階ラウンジは節電のためかちょっと暗い感じ。大きな売店などもあり、設備は充分です。

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お風呂は大浴場のほかに、予約制の貸し切り風呂があるのですが、「本日はすでに予約で埋まっていて、入れるのは明日の朝になります」といわれたので、朝に予約を入れてもらいました。

大浴場には海を見渡せる露天風呂もついていて、なかなかいい感じなのですが、けっこう人が多くて写真は取れませんでした。下の写真はホテルのHPからお借りしました。

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ちなみに貸し切り風呂は下の写真のような感じ。大浴場も貸し切り風呂もオーシャンビュー。

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お風呂に入った後、部屋から夕日を見ていましたが、天候のせいかいまいちでした(笑)

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食事は地下の食堂で取りました。こっちは安いプランで泊まっているのでショボいかなと思っていたのですが、充分な内容でした。ここで生ビールを飲んだ上、スタッフの人のおすすめで地酒「〆張鶴」も飲んでみました。さすが地元だけにおいしかったです。ここの食堂スタッフは呼ぶとすぐ来てくれるし、お酒を何本飲んでも怒らないし、すごく親切でした。

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しかし周囲の客のテーブルには、これに加えて村上牛などが。小学生みたいな子供まで、牛のステーキやら陶板焼きやらを食べています。厳しい身分の違いを感じてしまいました(笑)

朝食はバイキング。塩鮭とか、郷土料理の汁ものとか、種類も豊富でなかなかおいしかったです。あと、漬物がうまかったですね。

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翌朝の帰りは最初、フロントの女性がクルマで送るといっていたにも関わらず、部屋に電話をかけてきて「手のあいている者がいないのでお送りできません」といってきました。そんな話はホテルに泊まっていて聞いたことがないのですが、運転する人がいないということならしょうがありません。

タクシーで行くつもりでいると、さらにまた電話がかかってきて「管理の者がお送りする手筈ができました」ということで、結局送ってもらえることになりました。「管理の者」でも誰でもいいわけですが、最初からはっきりしてほしいものです。ただここのフロントには非常にてきぱきした、有能かつ若くて美人のスタッフがいたので、私としては全体的な応対は良かったと思っています。

朝はチェックアウトした後の少しの時間に、ホテルの前の浜に出てみました。

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下は浜側から見たホテル。
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まだ寒いので誰もいませんが、夏であればすごくいい立地だと思います。周囲にもこんな感じの海に面したホテルがたくさん並んでいました。子供連れで海水浴を兼ねてくるとおもしろいところなのではないでしょうか。

さて、無事に村上駅まで送ってもらい、時刻表を見るとまだ1時間くらいありました。そこで駅前にある観光案内所にひまつぶしに寄ってみました。

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入り口に昔のばあちゃんみたいなリアルな人形がいてびっくりしましたが、これは案内所のおばちゃんが自分で作ったそうです。ここのおばちゃんはすごく親切な人で、いろいろ教えてくれました。

例えばきのうの夕日がいまいちだったのは、「黄砂の影響だ」ということなど。

大震災以後、一時は自粛ムードで、瀬波温泉も大量のキャンセルが出たそうです。観光客はバッタリ来なくなったそうですが、連休に入ってようやく客が増えてきたということです。被災地とは直接関係のない離れた観光地にも、さまざまな影響があったようでした。

電車の時間になったので、普通電車で酒田へ向いました。村上は期待以上におもしろい町で、どうせならクルマよりじっくり歩いてみたい感じの町。今度来る機会があれば、駅前の「扇屋旅館」に頼んでみようと思っています。

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[瀬波温泉  ホテル瀬波観光](2011年5月宿泊)
■所在地   新潟県村上市瀬波温泉1-2-66
■泉質  ナトリウム塩化物温泉
■楽天トラベルへのリンク→瀬波温泉 ホテル瀬波観光
 
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自炊専門の湯治宿で気さくなご主人と温泉談義 [東鳴子温泉 まるみや旅館]

今年の連休に震災後の東北方面を訪ねてみようと、いろいろ計画を考えてみました。福島県内も考えたのですが、いくつか宿を当たってみると、ボランティアや復興工事関係者、原発関係者のみを受け付けているところが多かったので、単なる観光目的の私としては、どうしようかと悩むところでした。

そんな時に、前からこのブログに時々コメントをくれている東鳴子温泉・まるみや旅館のご主人「きくちゃん」さんから、「GWでもお客さんが全然こなくて空いている」というコメントが。そんなことなら、この機会にぜひ行ってみようと出かけることにしました。東鳴子はけっこう好きな温泉場で、これまで3回行っていますが、まるみや旅館さんは初めて。自炊専門の湯治宿なので、私としては久しぶりにのんびり温泉に入ったり、昼寝をしたりしてやろうという計画です。

今回は新潟経由で日本海側を酒田まで出て、さらに新庄から山越えで鳴子温泉郷をめざすという遠回りルートを取りました。新庄から陸羽東線の普通列車で山を越えると、鳴子峡を経て鳴子温泉駅に到着。東鳴子温泉は、さらにこの隣の「鳴子御殿湯」という駅なのですが、この日は自炊宿に泊まるわけなので、鳴子温泉駅周辺で食糧を調達するために下車しました。駅の近くの惣菜屋でおにぎりとか、アジフライとか、煮物なんかのおかずを買い、ビールも買って再び電車で鳴子御殿湯駅をめざしました。

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小さいけれど、けっこう新しいきれいな駅です。まるみや旅館さんに行くのは初めてですが、この駅には何度も来ているのでだいたいの場所はわかっています。前に泊まったことのある宿のすぐ隣でした。

旧街道に面した東鳴子温泉のメインストリートはこんな感じ。郵便局を兼ねた商店もあって便利。

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まるみや旅館はこの通りの1本裏にあるので、裏通りに入りました。

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このへんの風情からして、もう私としてはたまりません。自炊の温泉場らしい、独特の雰囲気があります。しかもこの温泉場の多くの宿が、今でも自炊ができる宿としてきっちり營業を続けているというのがすばらしいところです。

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左手の建物がすでにまるみや旅館の一部で、横に長くつながっています。その向こうに玄関がありました。

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すごくいい雰囲気です。いかにも自炊で長逗留したくなるような、湯治場らしい落ち着いた建物。古い建物だと思いますが、けっこう手が入っていて、きれいになっています。ご主人は「うちもかなりのボロ宿だ」と自慢していましたが、それほどのボロい家ではありませんでした。

私も「きくちゃん」さんことご主人にお会いするのは初めてなので、どんなようすかと思っていましたが、玄関を入るといきなり出てきて、「やあやあ、ようこそようこそ!!」と、まるで長年の常連客みたいに明るく歓迎してくれました。泣く子も黙る「元湯自炊 まるみや旅館」4代目。いただいた名刺の肩書は「湯守」。温泉へのこだわりと愛情を感じます。

お風呂の場所とかの説明を聞きながら2階の部屋へ。床の間やテレビも完備したすごく広いぜいたくな部屋で、かえって申し訳ない気持になりました。普通自炊で長く滞在する人は、もっと狭いけれどガス台などがそろった部屋に泊まるそうです。この日の部屋は1~2泊程度のファミリー向けで、あまり自炊宿に慣れていない人でも、気軽に泊まれるようになっています。

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とはいえこの部屋にも冷蔵庫とか食器類が完備されていて、部屋のすぐ前には、清潔で手入れが行き届いた流し台やガス台もがあるので、自炊したいという人にも便利。調理器具や鍋釜、食器、なんでもそろっています。

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とにかく、初対面にも関わらず、いきなり各地の温泉の話で盛り上がりました。そんな話の中で、私もようやく理解したのですが、湯治宿にもお得意様のエリアがあり、東鳴子温泉は伝統的に三陸方面の漁業関係者が多い温泉場だったそうです。今回の震災および津波被害によって、そうした常連客の足が途絶え、連休にも関わらず空いているという状況だということでした。しかも今後の復興事業は否応なしに長期化するわけで、先行きも不透明。結果的に直接的な被害が少なかった東鳴子温泉の宿も、経営が圧迫されているという状況のようです。

ニュースなどで見た限り、鳴子温泉郷では被災者を受け入れていると思っていましたが、一部の大規模施設は受け入れているものの、小規模な自炊宿ではそんな需要もなく、逆に本来の常連客が湯治滞在を遠慮するという、いってみれば悪循環にあるそうです。そんなことになっているとは東京にいて想像もできませんでした。

さて、部屋で話していると、きくちゃんさんが「鶏肉は大丈夫ですか?」と聞くので「大丈夫です」と応えると、「トマトは?」「にんにくは?」「ピーマンは?」などと続けざまに聞いてきます。実は夕食に得意料理を一品出してくれるということで、しめしめと 恐縮しながらもごちそうになることにしました。

夕食までのあいだ、まずはお風呂へ。ここのお風呂は自家源泉の男女別の内湯と、赤湯共同源泉の混浴の大浴場があり、いずれも源泉をかけ流しています。まずは混浴の大浴場へ行ってみました。

階段や廊下の雰囲気もいかにも自炊宿。私としてはこういう雰囲気だけでうれしくなってしまうのですが、階段をおりてすぐにお風呂があり、いつでも何度でも入れるという温泉天国。もう帰りたくなくなりそうでした。

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混浴大浴場は、大浴場とはいってもそれほど大きくはないのですが、源泉が次々と注がれていて、お肌にやさしい触感。前に泊まった東鳴子の高友旅館は石油臭のする黒いお湯でしたが、それよりやさしい感じです。

あとで男女別の内湯にも何度も入りましたが、こちらは少し濁りがあって、さらにお肌にいい感じがしました。いずれもいくつかの源泉が混合されているようで、なかなか奥深い印象でした。

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この日は長期滞在の客を含めてほかに3人程度しか泊まっていないということで、基本的にお風呂は常に独占することができました。すごいぜいたくです。きくちゃんさんによると、宿泊客を重視するということから日帰り入浴も受け付けていないそうで、その意味でも安心してくつろぐことができると思います。

さて、夕食時間の前に下に偵察に行くと、きくちゃんさんが何やら調理していて、バジルのいい匂いが漂っていました。奥さんが「今いっしょうけいめい作っていますよ~(笑)」というので、2階で楽しみに待っていると、ついにきくちゃんさんが料理を持って登場!!

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鶏肉のトマト煮込み。カチャトーラとか何とかいうそうな。山の湯治場にきて、こんな料理を出していただけるとは意外でしたが、きくちゃんさんは自らも各地の自炊宿を回っていて、その時によく作るそうです。「一番安い肉を買ってきてもおいしくできるので」ということでしたが、本当にいい味が出ていました。「味はともかく、心を込めて作りましたから(笑)」といってましたが、すごくおいしかったです。「ふだんはやらないけれど、今日はおなかにたまるようにパスタを下に敷いてみました」ということでした。

隣のふきの煮物は私が鳴子温泉で買ってきたやつ。漬物はきくちゃんさんが出してくれたのですが、これももすごくおいしかったので「自家製ですか?」と聞いてみると、「いや、どうかな。わからない」ということでした。奥さんが自分で漬けたり、買ってきたりするのでどっちかわからないそうです(笑)

とにかくこういうものを食べながら、ビールを飲みました。きくちゃんさんは「まだこれから到着するお客さんがいるので、少しだけご一緒させてください」といっていましが、結局途中抜けたりしながらもかなり遅くまでつきあってくれました。

それにしても、いろいろ旅の話を聞いたり、以前に訪ねた温泉の写真を見せてもらったりする中で、このご主人はつくづくただ者ではないな、と思いました。各地の有名旅館の経営者はもちろん、いろんな温泉関係のジャーナリストなどとも知り合いらしく、相当顔が広いようです。温泉文化に関わるいろんな活動にも積極的に参加しているような感じでした。

私のブログについても、「おもしろいけれど、“ボロ宿”というなら、東と西の横綱クラスが入っていない」と指摘されました。その横綱クラスというのはいずれも自炊の湯治宿で、横向温泉の「中の湯旅館」、川内高城温泉の「双葉屋」だそうです。そのほかにもいろいろ教えてくれたので、こっちも酔っぱらってしびれた頭ではありましたが、途中からメモを取りながらまじめに聞きました。

初めて会ったのにこんなにおもしろく、楽しく飲んでしまう、なんてことができたのはご主人のへだてのない人柄のおかげでしょう。さらに“温泉好き”という共通点があったからでしょうか。きくちゃんさんとしては、温泉に行くにもいろいろこだわりがあり、まず絶対に自炊ができるところ。さらに混浴があるところをターゲットにしてきたそうです。やはり本来の古い温泉文化を大切に思っているということなのでしょう。

私はただボロ宿が好きなだけで、知識も見識もありません。そんな私にとっても、なかなかためになる話が多かったです。

途中から日本酒になり、遅くまで引き止めたあげく、12時過ぎに解散しました。しかし、私はせっかくなので何度もお風呂に入ろうと、朝4時に起床。外はもう明るくなってきていました。通りには誰も歩いていませんが、素朴で落ちつけるいい雰囲気です。

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こういう宿にきてしまうと、1泊で帰るのがいやになります。料金も安いので、今度はぜひとも滞在させてもらおうと思いました。

この日、朝食にはきくちゃんさんがチャーハンを作ってくれました。これもすごくいい味のおいしいチャーハン。「料理なんかほとんどできない」といっていたのですが、得意な料理についてはそうとうこだわって作っている感じがします。

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本来、自炊の宿なのでこんなサービスは受けられないのですが、まるで昔からの知り合いみたいに親切にしてくれて、本当に感激しました。

まるみや旅館はなじみ客に支えられてきた自炊宿ですが、いきなり一泊でいっても十分楽しめると思います。自炊が面倒だという人でも、近くに商店があるほか、出前なども頼めるので問題はありません。宿の自販機のビールなども定価販売しているので、大量にビールを飲む人でも特に準備をしなくてもオーケーです。

それとこの宿ではチェックインは朝10時くらいから、チェックアウトは午後2時までと、滞在可能時間がものすごく長くなっているのが便利。例えば昼頃到着してチェックインし、荷物だけ置いて鳴子温泉の共同湯巡りに出かける、なんてこともできるわけです。「でもだいたいこのへんの宿のチェックインとかチェックアウトの時間なんて、一応決めてあるだけで、実際は応相談て感じですよ」といってました。そういうところも自炊宿の良さかもしれません。

この日も「いくらでもゆっくりしていってください」といわれたのですが、私はこの日、できれば東京に帰りたいという事情があり、さらにできれば海岸の被災地のようすも見ていきたいと思っていたので、9時過ぎくらいに出発しました。

でがけに「この宿のこともブログに書かせてもらいます」というと「全然かまいませんけど、ちょっと恥ずかしいなぁ~」などといっていました。これまでこのブログでは、泊まった宿のことを勝手に紹介してしまい、しかも“ボロ宿”などいうタイトルなので、たぶん怒っている経営者の方もいると思います。忸怩たる思いです。しかし今回だけはご主人が公然と認めてくれたので、何の遠慮もなく、堂々と紹介することができます(笑)

勝手にきくちゃんさんの顔写真も載せてしまいます。自炊宿のご主人といっても、まだお若くて気さくな方でした。

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奥さんが美人だったのですが、残念ながら写真を取り忘れました。最後はご夫婦と息子さんも見送りに出てくれて、小学生くらいの息子さんが「バイバイ、またきて下さい」といってくれたのでうれしかったです。ウルルン滞在記のような気分で宿を後にしました。

さてこのあとは、駅でいろいろ考えたあげく、陸羽東線で小牛田まで行き、東北線に乗り換えて松島まで行ってみました。石巻や気仙沼方面にも行きたかったのですが、今回は時間的に無理とみて、あきらめました。

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瑞巌寺門前のおみやげ屋さんも被害があったようでしたが、観光客はそれなりにいました。私としてはなるべく地域の復興に協力したいと、蔵王高原バニラソフトを食べてきました。あと「萩の月」を2個買いました。

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そのあと、仙石線がまだ一部しか復旧していなので、JRの代行バスで塩釜へ。やはり被害にあって、連休前に再開したという本塩釜駅近くのお寿司屋さんでお昼を食べました。板前さんは多賀城市に住んでいてクルマ2台流されたり、大変だったそうです。しかも付近にはまだなまなましい爪痕が残っていて、不謹慎かとも思いましたが、支援のためなので昼間っからビールも飲んできました。

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その後仙台まで行ってみると、運良く新幹線のチケットが取れたので無事にその日のうちに帰京。もしうまく新幹線に乗れなければ、どこかにもう1泊するしかないかと思っていました。

今回はまるみや旅館さんのおかげで、震災後の大変な時期にも関わらず宮城県を回ることができました。本当にその節はありがとうございました。貴重な温泉文化を守ってきた宿。どうかこれからも長く繁盛してほしいと思います。

東鳴子温泉に行く前に寄った新潟~山形方面については、また次回以降にリポートしたいと思います。

[東鳴子温泉  まるみや旅館](2011年5月訪問)
■所在地 宮城県大崎市鳴子温泉字赤湯33-2
■泉質  ナトリウム炭酸水素塩泉(源泉かけ流し)
■楽天トラベルへのリンク→東鳴子温泉 元湯自炊 まるみや旅館

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プロフィール

もんすけ

 古い湯治宿や駅前旅館など、日本が高度成長時代に入る前からあったような雰囲気の宿が大好きで、各地を回っています。
 どこにいってもそれなりに立派な宿が多く、個性的なボロ宿に出会うことは少なくなりました。
 10年、20年前ならもっといろんな宿が残っていたと思いますが、しかしいま現在でも、10年後、20年後に比べたら多くの貴重な宿が残っているはずです。そうした宿を記録に残していけたら、と思っています。

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