先日、名古屋から京都へと一泊で移動するという用事ができました。

名古屋で仕事をして、翌日の午後は京都。宿泊するのは京都でもいいし、名古屋でもいい状況でした。でもせっかくなのでふだん通り過ぎるだけのどこか小さい町で泊まってみようと、関ヶ原で宿を探しました。なぜか関ヶ原にあこがれがあったからです。何より歴史上最大の決戦である「関ヶ原の戦い」の古戦場として有名。ふだん新幹線でも在来線でも、山に囲まれた関ヶ原盆地を通りますが、関ヶ原付近から伊吹山山麓あたりの天気は、なぜかほかとまったく違うことが多いという不思議なエリア。前から探訪してみたいと思っていたところなのです。

こんな機会はめったにないので、しめしめと思って宿を探し、結局予約をした「桝屋」は、創業が永長元年というす ごさ。そんな元号聞いたことがなかったので、どれくらいすごいのかピンときませんでしたが、西暦だと1096年でした。平安時代です。もちろん建物はずっと新しいのですが、それでもそんな歴史のある宿ならぜひ泊まってみたいと思いました。

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名古屋から京都まで通しの普通乗車券を買って電車に乗り込み、夕方関ヶ原駅に到着。実際駅に着いてみると、有名な地名とは裏腹に駅前はひどく寂しく、観光用の地図はあるものの、売店ひとつありませんでした。もっと観光化されているとばかり思っていました。

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駅から見ると夕焼けのシルエットで、石田三成が布陣したという笹尾山が浮かんで見えます。

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一方反対を振り返ると徳川家康の本陣があったという桃配山もすぐ前に見えています。こんなせまいところで大軍が対峙したわけですから、それはものすごく激しい戦いだったのでしょう。

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「桝屋」は駅から歩いて1分くらいの旧中山道沿いにあります。すぐに着いたのですが、宿に入る前に薄暗くなった付近を歩いてみました。何しろここは古代からの交通の要衝で、伊勢に向う街道もありました。しかしその道はただの狭い路地でした。こんな何でもないような道が重要な街道だったわけです。古そうな家もたくさんありました。

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宿の玄関に当たる正面側は新しくなっているのですが、奥は古い建物でたいへん情緒があるいい宿でした。廊下にも畳が敷いてあるのは、必要に応じて襖や柱をとっぱらって、大きな広間として使うためだそうです。部屋は中庭に面していてなかなか風情があります。

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玄関から一番奥の部屋に向う廊下もなかなかいいムードでした。部屋と廊下が一体化してしまっている感じ。


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「お客さんは古戦場めぐりですか」と聞かれたので「いや、今日は名古屋で仕事だったんですけど、明日午後には京都にいなくてはいけないので、途中のどこか知らない土地で泊まってみたいと思っただけなんです」と正直に話しました。

隣の部屋には旧中山道を歩いてきたというご夫婦が先着していましたが、何しろ襖一枚で欄間は素通しなので、すべての会話が筒抜けです。それにしてもよくぞこんな宿が残っていたものです。

女将さんは「午前中だけでも、何か所か回れますよ。あとでご紹介しましょう。すぐにお風呂に入りますか」といいます。私が「入れるなら、すぐに入りたい」というと、隣の客のところにいって「お風呂はお済みですか」と確認してくれて、それで私も入ることにしました。

お風呂は新しくなっていますが、宿の雰囲気をこわさいない木製の湯船で、小さいけれどなかなか快適なお風呂でした。

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そのあとの食事は鍋。豚鍋とごはんのみ(笑)。部屋にはガスボンベが設置してありました。「前は旅館風の天ぷらとかお刺身も出していたんだですけど、そういうのには飽きたというお客さんが多くて最近はずっと鍋にしています。1年中。夏、どんなに暑くても鍋です。私が楽をしたいというのもありますけど(笑)」

確かに少し冷めたような天ぷらや焼物より、鍋のほうがうれしいかなあとも思いました。けっこう量があったのですが、ビールを1本飲んで、鍋は全部食べてしまいました。

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食事の片づけの時に女将さんと少し話しをしました。

私「すごく風情のあるいい宿ですね」
女将さん「昭和に建て替えたんです。その前はもっと古い建物だったんですけどね。写真が玄関のところに飾ってありますけどね。もう土台が傷んでいてどうにもならない感じだったんです。工事も大変でした」
私「女将さんはここの娘さんですか」
女将さん「いいえ嫁です。だから私もそんなに古いことは知らないんです。態度がでかいのでいつも家付きと思われるんですが(笑)」
私「いやいや、態度がでかいだなんて、そんな‥。しかしこの宿は平安時代からといいますけど、本当ですか?」
女将さん「そうです。ですから中山道というより、東山道の時代ですね」
私「そうすると関ヶ原の合戦の時はすでにあったわけですよね。すごいことですね」
女将さん「そういうことになります。でも最近は、観光のお客様は大垣あたりのホテルに泊まって移動しますから、あまりこのへんで泊まる方は多くないです。たまに街道歩きのお客さんがきますけど。ただうちは毎年海外の大学の先生が学生を連れてくるので、けっこうその時は大変なんです」

その外国の先生はよほどこの宿が気に入っているのでしょう。そのほかにも固定的な客がいて、土日はだいたい満室になってしまっているそうです。こんな貴重な宿なら当然のことだと思うのですが、逆に日本人はビジネスホテルを好むという不条理。

この付近はこの家を入れて3軒の和風旅館があるそうですが、あまり景気は良くないようです。そのうち一軒は80歳を超えたばあちゃんがひとりでやっていて、去年あたり「もうやめる」といっていたそうですが、最近の話しでは「もう1年はやる」というふうに延長されたそうです。大変でしょうが、がんばってほしい。

女将さんは「私はそんな80までなんて、とてもとてもできませんから、適当にやめようと思っています」ということでした。とても頭の回転の早そうな、おもしろい女将さんだったので、おそらく将来のことについてもそれなりに考えがあるのだと思います。
こんな会話をなんだかんだと1時間近くもしたでしょうか。

女将さんが去ってしばらくして気づくと、隣の部屋の電気が消えていて、テレビの音もしません。まだ9時くらいだったのです。そうするとこっちも早寝しないと悪いなと思って、とりあえず電気を消し、テレビも消音にして、もらった地図などを眺めて計画を練りました。開けっ放していて気持のいい風が入っていた中庭側のガラス戸も、少し寒くなってきたので閉めて、ふとんに入って計画立案。

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とにかく早起きして「不破の関跡」には行ってみたい。「関ヶ原」の「関」は、この不破の関なわけですから、地名の元になった関所の場所だけでも見ておきたいと思ったのです。地図上の目分量では2kmくらいありそうでしたが、早朝なら車も少ないし、どうってことはないと思いました。そんなことをしているうちに私も寝てしまいました。

翌朝は5時くらいに起きてこっそりと出かけました。このへんの旧中山道は今も幹線国道ですから、朝から大型トラックなどが通っています。しかし並んでいる建物にはどこか旧街道らしいの風情があります。

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この町で貴重だったはずの夜の歓楽ビルは、廃業してしまったようでした。

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途中には関ヶ原の合戦の時の首塚もあり、歴史を感じさせます。このへんでもずいぶん多くの兵が死んだのでしょうか。

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しばらく行くと、旧街道が国道からそれ、急に静かな道になりました。きれいな舗装路ですが、両脇には古そうな建物も多く、昔を感じさせます。不破の関跡もすぐに見つかりました。不破の関はだいぶ古い時代に廃止されてしまったのですが、その後も関守はいたらしいです。

この国境は古代に大海人の皇子が越え、東国の兵を募って壬申の乱に勝利しています。岐阜と滋賀の境には国境を挟んで寝ながら会話ができたという「寝物語の里」もあるとか。どこか伝奇的で風流な話しです。

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この付近には宇喜多秀家の陣や福島正則の陣跡もあるみたいです。とにかく朝食までには戻ろうと、また2kmの道のりを歩きました。ますますクルマは多くなっていて、歩道が狭くて危ない感じ。しかし、気分は古代ロマンに浸りきっていたので、あまり気になりませんでした。

部屋にもどってしばらくすると、女将さんが「あら、戻ってらしたの。全然気がつかなかった。よっぽど静かに戻られたんでですね」というのですが、いや、普通に戻りましたけど。宿の玄関で昔の写真も見ました。やっぱり昔の宿のほうがいい感じです。

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朝食は旅館風のスタンダード。おいしかったです。食事のあと、いくつか見どころポイントを教えてもらいました。あまりにも詳しいなあと思ったら、ふだん、ボランティアで関ヶ原町の観光ガイドもしているそうです。

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そんなわけでいろいろお世話になり、宿を出る時は、原哲夫が描いた戦国武将が表紙になったパンフレットもくれました。マンガの影響で人気が高いパンフレットだそうです。

この日は結局、お昼ごろには京都に到着しました。あまり観光名所を見ることはできなかったのですが、付近の街道といい、古戦場といい、いろんな見どころがあることがわかったので、今度行く時はゆっくりと歩いてみたいと思います。

[旅館  桝屋](2010年9月宿泊)
■所在地  不破郡関ケ原町大字関ケ原597 
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