旧大滝村時代にも一度訪問したことがある奥秩父。前に来た時は大滝村から雁坂トンネルを通って甲州方面に出ました。秩父往還から雁坂みちを経て、塩山に出るすごく印象的なルートだった記憶があります。

今回は西武秩父駅からバスで紅葉まつりのイベント会場である三峯神社をめざしました。秩父鉄道沿線から見える山々は、まだほとんど紅葉していなかったので、たぶん時期的には少し早かったのだと思います。

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バスは1時間くらいかけて三峯神社までの山道を登っていきます。乗ってみてわかったのですが、このバスは特急バスで、すべての停留所には止まりません。ただ秩父湖から三峯神社までの区間は自由乗降できることになっています。

細かいことがよくわからないまま、とにかく三峯神社へ。もう夕方になっていたので、紅葉まつりの露店なども撤収を始めていました。オープニングイベントのゲストとして「おぼんこぼん」が来ていたはずなのですが、当然もういません。残念。

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バスの運転手さんに聞いたところ、帰りのバスも特急で、「とにかくここから出るバスはみんな特急なので、特定のバス停にしか止まらない」ということでした。

そうなると、このあと泊まる予定の民宿「みたけ」がある落合停留所にも泊まりません。こんな奥秩父の山の中で、歩いて宿を探すことができるのかどうか。ただ、落合集落の近くの大滝温泉には止まるので、そこから歩くのが一番近いようです。

そうなると、どれくらい歩くことになるのかよくわからないので、早めに山を降りることにしました。

三峯神社参拝も中止。一応鳥居の前まで行って、アリバイのために写真を撮ってきました。

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紅葉にはまだ早いのは明らかですが、一部は色づいていました。しかしこのへんの紅葉は自然の植生というより、紅葉まつりのためにあえて植えたような感じもします。たぶん最盛期はすごくきれいになると思います。夕方ですがまだ観光客もけっこういて、おみやげさんもやっていました。

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暗くなってから宿まで歩くのは大変なので、最終よりひとつ早いバスに乗りました。

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そして大滝温泉で下車。ここは道の駅に併設された入浴施設がありますが、前にバイクで来たので、今回は入浴はパス。宿までどれくらい歩くことになるのかわからないので、それどころではありません。

そうはいっても秩父湖から三峰口駅の間は、旧大滝村の中でも中心市街地に当たるので、それなりに人家もあります。いくつかの小さな集落があって、民宿なども多いのです。しかし人通りはまったくありません。

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大滝温泉から歩き始めると、意外なことに10分くらいで落合バス停を発見。思ったより近かったようです。そしてすぐに民宿の「みたけ」を発見しました。これで一安心。まだそんなに暗くなっていませんでした。

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しかも宿について見ると、歓迎ビラまで出ていました(笑)

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このへんは秩父御岳山の登山口に当たるので、登山やハイキングの客が多いのだと思います。

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声をかけるとご主人らしきおっちゃんが出てきて、すぐに2階の部屋に案内してくれました。部屋もこじんまりとしていますが清潔な感じの部屋。最近冷えこんだせいか、こたつが出ていました。

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内装はみたところそんなに古く感じないのですが、基本構造自体はけっこう古い家だと思います。しかしいろいろ手が入っているようで全体的にきれいな感じ。見た目よりかなり大きな建物で、部屋数もたくさんありました。

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ふすまを勝手にあけて隣の部屋も撮影。

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部屋でのおっちゃんとの会話。

おっちゃん「お風呂は温泉になっていて、もういつでも入れますから」
私「温泉ですか。それはいいですね」
おっちゃん 「夕食は下の食堂に用意します。準備できたら呼びにきますから。朝食は何時くらいがいいですか?」
私「別に何時でもいいですけど、じゃあ8時くらいでお願いします」
おっちゃん「いや~できたら、もう少し早く食べてもらうと助かるんだけど」
私「いいですよ。7時半にしますか」
おっちゃん「すみませんがそうしてもらえますか。実は明日葬式があって、8時には出なくちゃならないんで。8時過ぎると食事の用意できる人間がいなくなっちゃうんですよ」
私「では7時半で」

ということでしたが、たぶん葬式などというものは急に入るわけですから、予約時には予定もしていなかったことでしょう。そういう事情を先にいってくれれば、朝食なんて何時でもよかったのに。

ご主人は恐縮しつつ去っていきました。

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早速お風呂に行ってみると、けっこう近代的な大きめ湯船でした。浴室は2箇所あり、この日はほかに客がいないのでひとつだけ使っているようでした。はっきりとはわかりませんが、鉱泉を汲んで使っているものと思われます。

お風呂から出ても、食事前に少し時間があったので外に出てみました。缶コーヒーでも買おうと思っていたのですが、商店らしき廃墟はあるのですが自販機ひとつみつかりません。

最初山のほうをめざしたのですが、神社や公民館みたいなのがあるだけで、何もなさそうだったので、Uターンして山を降りる方向へ歩いてみました。結局バスを降りた大滝温泉の道の駅まで歩いてようやく自販機を発見。ここでお茶とか缶コーヒーを買って宿にもどりました。

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もう付近はまっくらで、この道の駅付近の明かりだけが目立ちます。

部屋にもどってしばらくすると、おっゃちんが夕食ができたと呼びにきてくれました。もうめしを食う以外やることがないので、待ちに待った感じ。

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1階の広間におりると、やはりこたつが出してあって夕食の準備がしてありました。この日は使っていませんでしたが囲炉裏らしき部分もあるなかなか快適な居間で、大きな神棚がありました。また先代か先々代がもらったと思われる勲六等瑞宝章の授与状も飾ってありました。なかなかえらい人がいたようです。

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食事はボリューム感いっぱい。登山客向けなのか炭水化物、たんぱく質がありあまるような内容でした。特にうどんは小麦の素朴な味がしっかりしていておいしかった。スーパーで売っているのとはだいぶ違う感じがしました。川魚も焼きたてでした。この宿は2食付きで5000円くらいだったと思いますが、すごく良心的です。こんな値段でもうけは出るのでしょうか。心配になるくらいです。

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この日、部屋では秩父で買った武甲正宗は飲まずに、持ち込んだジャックダニエルを飲んで、寝てしまいました。

翌朝は時間より少し早めにおっちゃんが朝食の準備ができたと呼びにきました。

朝食も同じ部屋。山の中なのに鯵のひらきがすごくおいしいやつでした。

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おっちゃんは8時に葬式に向かわなくてはいけないので、とっとと朝食を食べ、精算もしました。おっちゃんは「食事さえすましてもらえれば、留守番にばあさんもいるから、精算は出る時でいい」といっていたのですが、ついでなので朝食後にすませました。

入り口付近でうろうろしていると、どこかの親戚のおっちゃんらしき人が奥から出てきて「これはつまらんもんだけど」といってタオルをくれました。

部屋に戻ってしばらく休憩していると、礼服でバチッとキメたおっちゃんがやってきて、入り口にひざを付き、「すまんことですが、それではこれからでかけますのでよろしく」といって去って行きました。

こういう小さな集落では葬式ともあれば一大重要行事でありましょう。偶然のこととはいえ、間の悪い時に泊まってしまい、留守番状態になってしまいました。

9時頃になって、そろそろ出ようかなと思って荷物をまとめ、下に行きました。精算はすんでいるのですが、「ばあさん」がいるはずなので声をかけましたが、誰も出てきません。

玄関そばの厨房をのぞくとついに「ばあさん」を発見。でかい声で「お世話になりました」というと、ようやく気づいて出てきました。どうやら少し耳が遠いようでした。そういえばこの家はやたらとテレビの音量が大きかったのですが、そのせいかもしれません。

「この家はずいぶん立派な家ですね。だいぶ長く宿をやってるんですか」と聞いてみましたが、どうも普通の声ではあまりよく聞こえないようでした。

ばあちゃんは、「立派だなんてことはないよ。古い家だから」というので、「でも神棚なんてすごく大きくて立派ですね」というと、「ああ、神様のことをいってくれて、本当にありがとうね」といって大喜びしながら握手を求めてきました。

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さらに「うちはそこらの畑で百姓もやっているから、ふだんなら何かあるんだけど、今日は何もあげるものがなくて」と、おろおろ回りを探し始める雰囲気。食事にも自家で作った野菜を使っているので何とかなるのでしょう。

私は「いやさっきタオルをもらいましたから」といったのですが、「ふだんなら何かあるんだけど、今日は誰もいなくてね。すまないね。それにしてもいろんなところに遊びに行くのはいいことだね。本当にうらやましいね。私も昔はじいさんと日本全国回ったもんだけどね。だいたい、私も九州の生まれだから」などと。

こんな会話を耳に口を近づけながらでかい声でしました。ばあさんは、どうしても野菜を持たせたかったらしく、ずっときょろきょろ探していました。しかしこういうところで大きな野菜をもらうと、お持ち帰りが大変なので適当にお暇してきました。

東京に近いとはいえ、山の中に住む人は本当に純朴で気分がいいです。

さてこの宿を出て、すぐ隣に普寛神社というのがあったので寄ってみました。

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この普寛という御方は木曽の御嶽山の大滝口を開いたえらい上人で、秩父御岳山はそれにちなんで名付けられたもののようです。いろいろ由来が書いてあり、像もありました。この落合集落の出身であったようです。


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普寛上人、なんか微妙な表情をしておられます。このへんに木曽御嶽山の講もあったようで、現在はどうなっているのかわかりませんが、やはり山岳信仰が根強く残っているのではないでしょうか。

このあと再び大滝温泉の道の駅まで歩き、少し地元産品の売店などを冷やかして、山くるみを買ってみました。

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さらにバスで今度は三峰口駅へ。かなり渋い駅でした。

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この日も天気はいまいちなのでまっすぐ東京に帰ることにして、秩父鉄道で御花畑駅へ。この駅には立ち食いそば屋が2軒もあってそそられたのですが、おなかがすいていなくて食べられませんでした。

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御花畑駅からは徒歩で西武秩父駅へ。特急でまっすぐ池袋まで帰りました。

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結局紅葉狩りが目的の今回の秩父の旅も、時期が早く紅葉はまだそれほど始まっていなくて残念でした。しかし素朴な民宿に泊まることができたのが何よりでした。

このしばらく後、紅葉狩りのリベンジを目的に今度は奥多摩の御岳山にいってみたのですが、その話は次回に。

[秩父市  みたけ](2011年10月宿泊)
■所在地 埼玉県秩父市大滝940
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