花巻の「大沢温泉」は、けっこう前から気に入ってしまい、6~7回は行っています。何がいいかというと、古い湯治宿の雰囲気が残っていること、料金が安いので2~3日いても普通の宿の一泊より安いこと、いい露天風呂をはじめ、お風呂がたくさんあること、それに宿が客にあまりかまわず、放っておいてくれることでしょうか。
初めて行ったときは東北地方をバイクで放浪している時で、当日予約で、「山水閣」といういわば新館の建物に2食付きで泊まりました。「山水閣」は自炊システムではない普通の豪華旅館。その後は「菊水館」という建物に1回、それ以外はすべて自炊部に泊まっています。ここで私が好きなのは、この自炊部です。「菊水館」も今は古い藁葺き屋根の建物になっていますが、ボロではありません。確か以前は藁葺きではなかったような気がします。
入り口付近の帳場や休憩室にも古い湯治場風情が残っています。
上の写真の橋の手前が自炊部で、向こう側が「菊水館」です。1軒宿ですが、館内に風呂がいくつかあるので、全部入るだけでもけっこう楽しめます。橋の向こうにもお風呂があります。
最初の訪問時から見ると「大沢温泉」もずいぶん変わりました。初めて行った時は、自炊部に付属している混浴の半露天風呂の「大沢の湯」がメインでした。敷地内を豊沢川が流れていて、川に面した水車なども見えるワイルドな露天風呂。
「山水閣」と湯治部は別棟になっていて、内部でつながってはいますが、「山水閣」の泊まり客も「大沢の湯」まで入りに来る人が多かった気がします。そのほか古い内湯や家族風呂もあったし、今は男女別のきれいな露天風呂もあるのですが、何といってもみんなこの露天風呂にはが好きなのでしょう。
夜、風呂に行くと、地元のばあちゃんたちが民謡を歌って盛り上がっていたりして、まさに田舎の湯治宿そのものでした。地元の若い女性もこだわりなく自然に入っていました。脱衣所はなく、お風呂の横の棚の前で着替えるようになっていましたが、この前行った時は女性用の脱衣所ができてました。
深夜に入浴する人はほとんどなく、夜中ならたいていお風呂を独占できたし、雨の日なども、ひと気がない露天風呂の風情はなかなか良かったです。
露天風呂は大きくて真ん中に岩場があるので、ある程度人が多くなると男女が自然に分かれて入るような感じで、いい感じの秩序ができていたように思います。最近はそうでもないようなのが残念。
ただ自炊部の雰囲気だけはあまり変わっておらず、いまでも2000円~2500円くらいで泊まることができます。寝具や浴衣を借りると、その料金が多少かかりますが、常連客は必要なものを用意していくので、すごく安く泊まることができます。
食事は館内に「やはぎ」という食堂があるほか、食材なども扱っている売店や炊事場などもありますので、特に用意がなくてもまったく問題ありません。1日、2日くらいの滞在なら「やはぎ」で十分だと思います。私はここのラーメンが気に入っているので、行くと必ず食べています。最近は懐かしい「中華そば」という感じから、ちょっとおしゃれな今どきのラーメン風になって少し残念です。朝食も予約制ですが、用意してくれます。
自炊部に泊まった時に1度、3畳くらいの狭い部屋に通されたことがあります。この部屋にもガス台や冷蔵庫、食器棚などがあり、布団を敷くともうスペースがほとんどないくらいの狭い部屋でした。
布団の足のほうは、作り付けの戸棚の下に足を入れるような形でないと寝る場所がないという強烈な狭さ。こういう部屋に通されたのはこのときだけで、あとは普通の6畳~8畳くらいの部屋でした。この時は一人だったので、夜中につくづく侘しさを感じました。温泉宿で3畳間に泊まったのは初めて。もう使っていないかもしれませんが、できれば泊まってみたい。
自炊部の建物は古くて入り組んでいますが、それも湯治宿らしくて楽しいです。お風呂に行く人が通る足音や気配もすぐにわかるくらいに部屋も開放的で、昔の素朴な湯治宿の雰囲気が残っています。1か月くらい滞在したい気分でした。
2008年に訪問した時はちょうど「大沢の湯」で「金勢まつり」をやっている日で、すごくにぎわっていました。こんなことも含めて、長く変わらずにいてほしい温泉のひとつです。
紹介した写真にはだいぶ前のやつも混ざっているので、多少変わっている部分もありますが、だいたい同じままだと思います。数ある湯治宿のなかでもかなり気に入っている宿のひとつで、実はあまり紹介したくないのです。
[大沢温泉・湯治部](2008年4月宿泊)
■住所 〒025-0244 岩手県花巻市湯口字大沢181
■泉質 アルカリ性単純泉
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