「ゲンセンカン主人」(つげ義春)というマンガがあって、どこか田舎の湯治宿が舞台になっています。ここで描かれている世界に妙にひきつけられて、ひところ似た雰囲気の宿を探していました。 

一応群馬の「湯宿温泉」が舞台だということになっていて、実際につげ義春はかなり気に入っていたみたいです。今いってみても共同浴場などがあり、確かに上州街道から少しはずれていてのどかな感じですが、きれいな石畳みが敷いてあるすっきりした温泉街で、マンガのような雰囲気はありません。 

はっきりいって床が傾き、お経を読む声が聞こえるようなゲンセンカンみたいな宿はありませんでした。「大滝屋」というのがモデルらしいですが、今は変わってしまっています。 

ただ「源泉館」という宿は日本中の温泉地にある名前なので、私もいくつかいったことがあります。 ひとつは山形の銀山温泉にある「源泉館」で、温泉街全体が雰囲気があって気に入りました。「ゲンセンカン」のように寂れた雰囲気ではなく、きれいで風情があり、能登屋という古い宿はいまや大人気だそうです。ここの源泉館は普通の小規模な宿で建物や風呂もごく普通でした。 

次にいったのは、山梨の下部温泉にある「古湯坊 源泉館」で、ここはかなり迫力があり、気に入ったので2回いっています。私たちは湯治棟に泊まったので、食事も湯治向けのものでした。毎日同じような根菜類を煮たものが、煮物やカレーやシチューなど、調理法を替えて出てきます。

ここのお風呂は自然湧出している岩場に床板を渡した源泉そのもので、温度は非常につめたい水みたいなお湯です。 混浴ですがほとんどの人がバスタオルを巻いたり、湯浴着を着ています。長期滞在の湯治客ばかり、毎日そこに長時間黙り込んで浸かっているので、次第にみんな顔見知りになりました。

佐野史郎が出ていた「ゲンセンカン主人」という映画も見ましたが、原作のイメージには遠く感じました。結局ゲンセンカンは見つかりませんでしたが、いくつか気に入った宿を見つけることができました。そんな宿も含めて、これから紹介していきたいと思います。